第30幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
月の浮かぶ宵闇の空。
橋の上を歩くのは二人の男。どちらも廃刀令が執行されているこの時代には合わない物を腰に持ち、顔を隠すように笠を被っていた。
「ちょいと失礼。桂 小太郎どのとお見受けする」
先に声をかけたのは赤い襟巻を首に巻いた男。桂は足を止めて男の声に耳を傾けた。
「人違いだ」
「心配いらんよ。俺は幕府の犬でもなんでもない」
「犬は犬でも血に飢えた狂犬といったところか」
背後から感じる殺気に桂は呆れた声で答える。幕府の犬であればこんなまどろこっしいことはしない。それに最近は真選組に追われることも大分少なくなった。
幼馴染の彼が真選組に席を置いているからなのかは知らないが、あれだけ追われていた我が身は最近では自由に動くことが出来ている。今もこうして夜とはいえども、散歩が出来てしまうほどには。
もしかしたら彼が裏で手を回しているのかもしれない。攘夷浪士として指名手配されている身でいうのもなんだが、職権乱用のしすぎでは無いのだろうかと度々心配になる。
真選組の者ではないのであれば、この男は一体何者なのか。
思い当たるとしたら、巷で横行しているという辻斬り。その手の話に敏感な幼馴染から横流しされた情報。
真選組と攘夷浪士という関係性なのにも関わらず、辻斬りに気をつけろと言った彼はとても心配そうな表情を浮かべていた。そんな彼を宥めたのはまだここ数日の間の話だ。
そんな中でのこの男の出現。海はもしかしてフラグ建築士なのだろうか。そう思ってしまうほどタイミングが良すぎた。
「近頃、巷で辻斬りが横行しているとは聞いていたが……噛み付く相手は選んだ方がいい」
「フッ……生憎、俺も相棒もあんたのような強者の血を欲していてね。ひとつやりあってくれんかね?」
そう言って襟巻を巻いた男は腰にある刀の柄を握る。
刀を抜く音が聞こえて振り返った先にみたのは赤い鞘に紫がかった柄巻。
桂はそれを見て目を大きく見開く。どうしてこの刀をこの男が持っているのか。
問いかけようとした瞬間、男は桂の横を一瞬にして通り過ぎた。
途端に背中から噴き出す赤。斬られたのだと気づいた時には遅く、既に桂は刀を取り出す気力を失った。
「あらら……こんなもんか。クク……やはり俺を楽しませてくれるのはヤツだけらしいな……楽しみにしているよ……蒼き閃光、桜樹 海」
口元を歪めて下卑た笑いを浮かべる男。薄れる意識の中で聞こえたのは、懐かしい異名と友人の名前。この男は海を狙っているのか。
「(銀時に……知らせなければ……!)」
自分では彼を守れない。いや、守る必要は無いかもしれないが、彼に何かあった時の為に誰かに知らせておく必要がある。
地に倒れ伏しながらも友人を守ろうと桂は這うようにして身体を動かす。
「海……!」
嫌な予感がする。この男の持つあの刀と、すれ違った時に香った紫煙の匂い。あの匂いには覚えがある。
あの日、高杉が桂の元を訪れた時にも同じ匂いがした。
「だ、れか……」
守ってやって欲しい。彼は仲間内には弱いから。きっと刃を向けられたとしても、彼は戸惑うだけで刀を交えようとはしないかもしれない。そこに付け込まれて連れていかれてしまう。
だから誰かアイツを守って欲しい。
その願いが誰かに届く前に、桂の意識はぷつりと途絶えた。
.
1/6ページ