第19幕
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『どういうことだよこれは……』
朝餉を済ませた海。今日は確か土方が隊士たちに稽古をすると言っていたのを思い出して、ふらりと道場へと足を運んだ。
だが、そこにはいくつもの布団が敷いてあり、稽古中ではないのは一目瞭然。布団に横になっているのは苦しそうに唸る隊士達。
一体なにがあったのか。
近くの隊士にそっと近寄って腰を下ろす。この季節だ。大方、熱中症にでもなったのだろうかと考えるが、それなら布団に寝かしておくだけでなく体を冷やす処置もされているはず。
どの隊士もただ寝かされているだけで何か特別な処置を受けていないのに疑問を感じた。
『土方にでも聞いてみるか』
稽古をすると言ったのは土方だ。隊士たちがこうなった理由も彼ならわかるだろう。寝ている隊士を起こさぬように静かにその場から立ち上がって道場を出ようとした。
「あれ、海さん?」
『総悟。これは一体どういうことなんだ?』
「こいつら全員、幽霊にやられたらしいんでさぁ」
『幽霊に?そんな非科学的なものを信じてるのか?』
「海さんは幽霊を信じてないんですかい?」
『目に見えるものしか信じない質でな。悪いが生まれて此方、幽霊を見たことがないから信じてない』
何を馬鹿なことを。幽霊なんてものが存在するはずも無い。そう言ってのける海に総悟は尊敬の眼差し。「やっぱ海さんはそうでなくっちゃ」と総悟に言われて首を傾げた。
「じゃあ、海さんにとって怖いものって?」
『怖いもの?怖いもの……』
そう言われてすぐに思い浮かぶものがなく、暫し考え込む。怖いもの。直近で怖かったといえば、海で溺れたこと。それなら怖いものは水?いや、それは安直すぎる。
なら何が怖い?その時、浮かんだ顔にハッとなった。あぁ、失ったら確かに怖いかもしれない。
『……ぎ……』
「ぎ?」
それは完全に無意識だった。別に深く考えて出てきた言葉でもない。それなのに口から漏れ出た音はアイツの名前で──
「冗談じゃねぇぞ。天下の真選組が幽霊にやられてみんな寝込んじまっただなんて……」
総悟が訝しげに海の言葉を待っていた時、道場に土方が顔を出した。
海は素早く土方と総悟に背を向けて道場から離れていく。
『アホか。とりあえず後で医者でも呼んどいてくれ』
「あ?お前はどこに行くんだよ」
『書類がまだ残ってんだよ。それを終わらせねぇと今夜も眠れねぇ』
「おま、また徹夜したのか!?」
『やらないといけないもんだからな』
じゃあな、と土方と総悟を見ずに海はその場から離れた。
『なんで俺……』
怖いものと聞かれて思い浮かべたのは銀時の顔だった。あの場で口に出そうとしたのは銀時の名前。
確かに友人である彼を失うのは怖い。それは桂や晋助、辰馬だって同じこと。なのに一番最初に思い浮かんだのが銀時だった。
それを自覚してしまった途端、顔が熱を持ちあの場に居続けるのが難しくなった。
『仕事、しよ……』
ダメだ。寝ていないせいで変なことばかり考えてしまう。無駄なことを考えてしまう前に仕事して紛らわせよう。
赤くなった顔を冷やすように手で扇ぎながら海は部屋へと急いだ。
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