第19幕
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『はぁ……終わらねぇ』
書類とにらめっこしてから3時間ほど。全く減る気配のない書類の山を見て海は深いため息をついた。
この書類のせいでここの所まともに寝れていない。
海の目の下には色濃く出ている寝不足の印。朝、鏡を見るたびにそれが目に入ってはどう隠すかと悩んだ。
机の上の湯のみへと手を伸ばして口へと運ぶ。既にお茶は冷たくなっていた。このお茶を持ってきたのいつだったか。
口に入ったのは上澄み。底の方を覗くと濃い緑が沈殿していた。これは入れ替えなければ美味しくない。
海は湯のみを持って立ち上がり、襖へと手をかけた。
「「「ぎゃああああ!!!」」」
襖を開けて廊下へと顔を出した海の耳に聞こえたのは隊士たちの悲鳴。
『こんな真夜中に何やってんだよ……』
屯所内に響いた悲鳴に驚いて湯のみを持っていた手が揺れる。湯のみを落とすことは無かったが、中のお茶が廊下へと零れた。
『あー……』
零れてしまったお茶を見て面倒くさそうに海はだらしなく口を開けた。部屋へと戻り、ティッシュを数枚手に取って廊下のお茶を拭く。
使ったティッシュを部屋のゴミ箱へと投げつけ、襖を乱暴に閉めた。
『お茶、変えよう』
これで漸く食堂へと行ける。のんびりとした足取りで廊下を歩き始めた。
昼間は暑く、少し動いただけでも汗がじんわりと滲むほどの温度だが、夜になれば幾分かはマシになる。涼しい風が頬を撫でていくのがなんとも気持ちいい。
縁側を歩きながら月を眺める。今日は綺麗な三日月。月の光は乏しいが、闇夜の中で光っているものがあると安心するものである。
『ん?』
もうすぐ食堂につくというところで、何かが視界に入る。屯所の周りにある塀の上に人影が見えた気がして目を凝らす。なぜあんな所に人が?それほど疲れているのかと目を擦って再度、人影が見えた所を見るがそこには何もいない。
『気のせいか』
引きこもって書類ばかり見ていたら頭も目も疲れるか、なんて思いながらもまだ終わりそうのない書類の山を思い出して、今日もまた徹夜になりそうだなと休息を諦めた。
食堂でお茶を汲み直して、一杯飲んでから部屋へと戻る。お茶を飲んだおかげで少しばかりだがスッキリとした視界。もう少しだけ頑張ろうと気合を入れ直している海の前に現れたのは妙にソワソワしている近藤。
『近藤さん?』
「あ、海か!」
『どうしたんだよ。こんな時間に』
「いや……その……」
『なに?』
「海!厠に行かないか!?」
『は?厠?』
「い、嫌ならいいんだ!嫌なら!」
『嫌とは言ってないけど……でも、なんで突然』
「こ、これはほら!男同士の友情を育むためにだ!」
必死に理由を作る近藤を見て、奇異そうに見る。別に断る理由もないから構わないが。
『いいですよ』
「ほんとか!?」
『厠に行くだけでしょう』
「よし!海、行こう!今すぐ行こう!我慢してたんだ!」
ちょっと待ってくれと近藤に声を掛け、手に持っていた湯呑みを部屋に置いてきた。そこで、はたと気づいた。まさかこの人は自分と厠に行きたいがためにここで待っていたのか。いつからここに居たのかはわからないが、海が食堂に行っている間、ずっと海の部屋の前で。
そっと廊下で待つ近藤を盗み見る。そわそわと周りを見ながら海が戻ってくるのを今か今かと待っている近藤。申し訳ないがかなり気持ち悪い。
近藤と一緒に厠へと歩いていく道すがら、他の隊士たちが話しているのが聞こえた。どうやら先程まで怪談話で盛り上がっていたのだが、土方の突然の乱入により締めが悪かったらしい。
『近藤さん、怪談話に付き合っただろ』
「え!?そんなことないよ!?」
だから先程からそわそわしているのか。近藤の妙な行動に納得した海は、不意に腕を持ち上げる。着流しの裾をガッシリと掴んだ近藤の手が見えた。
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