第17幕
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日が暮れて時は夜。
海は欠伸を噛み殺しながら下着泥棒が現れるのを待った。
道場の庭には一般家庭が持ち得ないはずの地雷が設置され、下着泥棒が地に足をつけた途端に足が吹っ飛ぶというなんとも血なまぐさくなる予定だと先程、土方と総悟に教えられた。
『ほんとに来るのかも怪しいのにいつまでこうしてるんだか。今日一日をこんな事に使うなんて』
本来なら今頃市中の見回りに出ているはず。いつものように怪しいヤツを見つけたら捕まえて、何語もなければそのまま屯所へ帰っていたはずなのに。なぜこんな所でふんどし仮面なる者を待ち構えているのか。
本日何度目かのため息を漏らした海の耳へと届いた轟音。物凄い音にビクッと身体を揺らした。
『……誰か地雷を踏んだな……?』
どこかの地雷が起爆したのか、新八の家に爆発音が響く。これは明日、ご近所さんからクレームが入るだろうな。下手したら通報されかねない。
『ご近所トラブルはめんどくせぇよ?新八』
きっと彼も今頃冷や汗を垂らしながら頭を抱えている事だろう。
とっととふんどし仮面を捕まえてやらなければ、新八の胃がストレスによって荒れそうだ。
騒いでいる銀時達を静かにしようと一歩、その場から踏み出した時。塀の上に人影が見えた。月明かりしかないこの薄闇の中でその姿はシルエットでしか確認出来ないが、確かにあれは人だった。しかもここにいる顔見知り以外の見知らぬ姿。海は刀に手をかけてその姿を追った。
『銀時!』
「海!?」
『そっちに誰か行った!』
「まじで!?」
影を追いながら銀時達と合流して人影が見えたことを伝える。視界の端に近藤さんが倒れているのが見えた気がしたが、もうツッこむのもめんどくさい。
静かな街に響く男の高笑い。皆が一斉に声がした方へと顔を向ける。志村家の屋根に見える人影は月を背景にして立っていた。よく見れば、その男は今朝の新聞で見たふんどし仮面の姿と酷似している。
「光ある所に影がある。ひとつ、人よりハゲがある。パンツのゴムに導かれ、今宵も駆けよう男ロマン道。怪盗ふんどし仮面!ここに見参!」
見ていて恥ずかしい。登場のポーズを決める男から目を逸らす。共感性羞恥の辛さである。
「滑稽だ。滑稽だよお前ら。なんだか俺のために色々用意してくれたようだが、ムダに終わったようだな」
「最悪だ!最悪のタイミングで出てきやがった!」
頭を抱えて叫ぶ新八。最悪のタイミングの意味がわからず、海は不思議そうに銀時達を見やる。志村家の回りを巡回していた海は敷地内の事は把握しておらず、何があったのかはわからない。
『なにしたんだよお前らは』
ふんどし仮面が目の前にいるのにも関わらず、その場から動こうとしない新八達。海はまさかと思いながら足元を見ると、所々掘り返された跡らしきものが見えて、思わず喉がヒュっと鳴った。
自分が走ってきた道のりをゆっくりと振り返る。
『(よく……踏まなかったな……)』
そこかしこに設置された地雷。まさか新八たちが埋めた場所を把握していないとは。嫌な汗が全身に滲む中、青ざめた顔をしながらこちらを見る銀時。その目は「そこから一歩も動くんじゃねぇ」と言っているようだった。
「こんな子供ダマしに俺が引っかかるとでも?天下の義賊、ふんどし仮面も見くびられたものよ。ここまで来れば相手になってやるぞ。うん?」
動けない銀時たちを嘲笑うように煽るふんどし仮面。悔しそうに歯噛みする新八。これはどうにかしてやらないと。
『掘り返されてるところは一応見えるっちゃ見えるけど……』
月明かりでの識別では少しばかり心許ない。一歩間違えれば死。自分は近藤さんみたく頑丈では無いのだ。地雷を踏み抜けばこの身体は四散する。
そんな賭けみたいなことをするべきではない。頭では分かっているのだが、どうにもあの屋根の上で高笑いをしているやつを殴りたい。
その一心で海は覚悟を決めた。
新八たちがふんどし仮面に気を取られている間に、ゆっくりとだが確実にその場から離れていく。要は地面から離れればいいこと。新八の家の縁側から柱を伝って屋根へと登り、あの男を殴りつけて捕まえる。
そうすれば万事解決ではないか。
『いける。大丈夫。俺ならいける』
ゆっくりと志村家へ近づいていき、あと一歩で縁側へと手が届くというところで、なにやら屋根の上が騒がしくなった。
海がいる場所からはもう屋根の上を確認することは出来ない。何が起きているのか分からないまま、海は縁側へと飛び込んだ。
『これでとりあえずはなんとかなんだろ!!』
室内に入ったことにより地雷の危険性は無くなった。今度は屋根に登らなけらばならないという問題。どうしたものかと悩む視界の隅で、山崎と数人の隊士たちが上から落ちてきて地雷の餌食になったのはもう気にするまい。
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