第13幕
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「……銀ちゃん」
暫くすると神楽がそろりと襖を開けて顔を覗かせてきた。胡座をかいて座っている銀時に寄りかかるようにして眠っている海。
そんな海を心配そうに見つめる神楽に苦い顔をした。
「泣き疲れて眠ってるだけだから心配すんな」
「ごめん、銀ちゃん。私たちが隠したせいで海が辛い思いさせちゃったアル」
「お前らのせいじゃない。元を辿れば俺達が……俺が悪いんだ」
泣き疲れて腕の中で眠っている海の顔を見る。まつ毛に残る雫を指で掬うと、もぞりと顔を隠すように銀時に擦り寄る身体。
海が怪我を隠す根本的原因はもしかしたら自分のせいかもしれない。そう話す銀時に神楽は訝しげに首を傾げた。
「(あの頃のせいだよな、やっぱ)」
思い出すのは攘夷戦争の頃。次々と仲間が死んでいくのを間近で見ていた。もはや、仲間が死んだとしても悲しむ余裕も無いほどに。
心が壊れてしまうのではないか、いっその事壊れてしまった方がどれだけ楽かなんて嘲笑うほどだった。
そんな場所に銀時と海は居た。白夜叉、蒼き閃光と謳われて前線で常に体を張っていた。そうなると怪我も絶えないわけで、瀕死の状態になったのだって数え切れないほどあった。
それは周りの奴らの士気にも関わった。自分たちが怪我をして動けなくなれば、隊の奴らが不安気な顔を浮かべる。今日は無事帰ることが出来るのか、と。
そんなのそいつの運次第だろう。生きたいなら生きる為に踏ん張れ。そう言えたならば良かったのだが、海がそんなことを言うはずもなく、不安がる仲間の肩を叩いて元気づけた。皆帰れるように人一倍動いて。
だからこそ怪我に関しては細心の注意を払っていた。例え怪我したとしても仲間内にバレぬように隠し通した。自分の怪我で仲間に負担をかけたくないと笑う海の顔はよく覚えている。あの時、どれだけ海の隊の奴らを殴りたかったか。もうコイツに無理をさせるな、もう無理に笑わせるな。
何度もそう思った。でも、結局は海をこの戦争に引きずり込んでしまった自分のせいではないのか。海だけでも安全な場所に避難させればこんな事にならなかったんじゃないかと罪悪感を募らせた。
海がこうして強くなったのも、怪我をひた隠しする癖をつけてしまったのも。全ては己のせいなのではないか。
「銀さん」
俯いて自己嫌悪の闇に埋まりそうになった時、新八に名前を呼ばれて我に返った。ゆっくりと顔を上げれば、神楽同様、曇った表情を浮かべている。神楽と違うのはその顔を銀時にも向けているというところ。
「大丈夫……ですか?」
「なんでもない」
いつものように気だるげに返せば、多少なりとも新八の顔から曇りが晴れた。
「すみません。僕がしっかりしてなかったから」
「そんな状況じゃどうしようもねぇだろ?」
「でも……」
「でもも、だってもありません。はい、この話はもうお終い」
新八まで罪悪感を感じることは無い。俯く新八の頭を雑に撫で回していると、インターホンが室内へと鳴り響いた。それは一回ではなく、何度もしつこく鳴らされた。
『ん……』
こんなに何度も鳴らされては静かに眠むらせてやることも出来ず、海がゆっくりと瞼を開けてぼうっと眠そうな顔で銀時を見た。
「お迎え、来ちまったな」
『おむか、え?』
眠さ残る頭では理解出来ていないのか、海はたどたどしく呟く。まだ寝ていたいと愚図るように銀時の首に頭を寄せて擦り寄る。
海の頭へと手を伸ばして優しく撫でながら襖の方へと目を向ければ、怖い顔をしたお兄さんが銀時を射殺さんばかりに睨んでいた。
「(誰にも渡さねぇ。海は俺のなんだよ)」
誰にもこの子は渡さない。それはどす黒く染まった独占欲。
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