第12幕
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近藤の切羽詰まった声が辺りに響き、周りにいた隊士立ちを集めて近藤の元へと走った。そこには血を流して倒れている海と、海に声をかけている近藤の姿だった。
「近藤さん!」
「総悟!海を早く手当してやってくれ!俺を庇って撃たれたんだ!」
そう吠える近藤も左肩を撃たれたのか血を流して痛みに顔が歪んでいた。
隊士たちに近藤をその場から移動させるように指示し、自分は倒れている海の側へと寄った。先程よりも顔色が悪いし呼吸も浅い。このままでは海の命が危ない。早く医者に見せなければと焦る中、もそりと現れたカエルが海と近藤のことを鼻で笑っているのが聴こえた。
「フン……猿でも盾代わりにはなったようだケロ」
その言葉に理性が吹き飛ぶ。近藤と海は己を犠牲にしてでもこの天人を守ったというのに。
そもそもこいつは悪人じゃないか。違法薬物に関わっているのは明白。そのせいで攘夷浪士から狙われる身になった。粛清されても仕方ない悪党なのに近藤と海は護れと言う。
命懸けで護った相手に蔑まれているのに。それでもこの天人を護れと言うのか。大切な人たちが傷ついたのに。
このクソ天人はここで殺さなくては。そうでないと気が済まない。怒りに任せて抜刀しようと刀に手をかけたが、そばにいた土方によって止められた。
「やめとけ。瞳孔開いてんぞ。それよりも早く海を手当しろ」
「あっ……」
自分が今何をしでかそうとしていたのかを理解して正気に戻る。そして、きっと自分以上に瞳孔が開きまくっている土方の目を見て頭が冴えた。
「ただでさえ体調が悪いのに出血してんだ。早く手当してやらねぇとこいつの命が危ねぇ」
「海……さ、ん」
「しっかりしろ、早く行け」
「は、はい……」
海を横抱きにして持ち上げる。気を失っている状態でも痛みに顔を歪めているのが見え、少しでも辛くないようにと歩く振動が伝わらないようにすり足で移動した。
燃えたぎるような怒りを抱えたまま、海を安全な場所へと運んだ。抱いている手がどんどん濡れていくのを感じる。早くしなければ本当に海が危ない。
「おい、お前ら!早く医者を呼べ!!」
隊士達に声をかけて急がせる。襖を足で開けて用意されていた布団の上に海を優しく下ろした。自分の両手は血で真っ赤に染まっている。血を見ることには慣れているはずなのだが、恐怖で血の気が引いていくのを感じた。
海がこれだけの怪我を負うのは初めて見る気がした。毎日攘夷浪士を相手に戦っている人だから切り傷や擦り傷は沢山あれど、こんな重症を負ったことは一度も……。
「海さん!しっかりしてくだせぇ……!あの時だって……大丈夫だったじゃないですか!」
海に初めて会った時。彼はびしょ濡れの状態で近藤に抱えられてやってきた。怪我をしていると言われて介抱したことがある。その時以来だ。
でも、こうして海は生きている。だからきっと大丈夫。そう信じて祈った。
医者が来るまでの10分近く。とてつもなく長く感じたその時間の間、何も出来ない自分を責め続けた。
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