第11幕
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『さすがにこれはしんどいな』
部屋に入ってすぐに海は横になった。机の上に置いてあった書類が畳の上に散らばっていくのが見えたが、それを直す気にもならない。立っていることはおろか、座っているのも辛いくらいに背中の傷がじくじくと痛んでいた。
大きな傷は背中だけなのだが、あのよく分からない糸のせいで全身に怪我を負っている。そのせいか少し腕を動かすだけでも痛みが全身を走り抜けるのだ。こんな状態で会議に出続けるなんて無理だった。
早くこの痛みから解放されたい。その一心で机の上へと手を伸ばす。怪我をした翌日、一応は病院に行った。医者からは入院して背中の傷口を縫うべきだと言われたが、そんなことをしている暇は無いと突っぱねた。
自然治癒でどうにかなる怪我では無いのは知っているが、今この状況で海が抜けられるわけもない。だから医者に無理を言って痛み止めだけ処方してもらった。もし、傷口に異変が見られたらすぐに病院に来るようにと約束して。
もらった薬を分量も見ずにケースの中から取り出す。口に放って水で流し込んだあとはもう動く気になれなかった。
『ダルい。熱い』
包帯は毎日隠れて取り替えているから傷口が膿むことことはないだろうけど、明らかに怪我による不調は増えていた。早くどうにかしなければ、と朦朧とした意識で考えるが、そんな頭では良い方法なんて思いつくわけもない。
『も……起きたら……』
起きたら考えればいい。その時には多少なりとも薬が効いているはずだ。それまでは寝る。
痛みのせいで睡眠不足だった身体はあっという間に夢の中へと落ちた。
⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆
「なんだこりゃ……」
会議が終わってから数時間後。今日の会議の内容をまとめたものを海に渡すべく、土方は部屋へと来ていた。
廊下から声をかけるも返答はない。そういえば会議中、彼は大分疲れた様子をしていた。体調が悪いのかと声をかけたが、曖昧な返事をするだけ。もしかしたら大分無理をさせていたのかもしれない。
海が出てくるのを待つよりもこれは早く中を確認した方がいいと判断し、土方はゆっくりと襖を開けた。
一番最初に目に飛び込んできたのは机の上に乱雑に置かれた書類の山。それは床にも散らばっていて足の踏み場もない状態だった。
現場に出るよりもデスクワークの多い海は度々書類に追われる日々がある。だが、今回ほどの量は初めてのことだ。
「なんでこんなに……」
床にある書類を一枚手に取って捲ってみると、そこには違法薬物の処理や春雨が使っていた船の後始末。しかも、薬物依存に陥った者の状況報告などがまとめられていた。
それらは全て、土方や総悟が処理すべきもの。
「まさか俺らの代わりにやってたのか?」
何かあれば現場に飛んでいってしまう土方たちの代わりに海は事務仕事を請け負っていた。今回、春雨の件で書類地獄だったのだろう。どれだけ忙しくても倒れることの無い海がここまでへばっているということはそういうこと。
「……悪かった」
気づいてやれなくて済まなかった。散らばっている書類を一枚一枚拾いながら、土方は小さく呟いた。
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