第10幕
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「ここを見られてしまっては生きては帰さないでござる。済まないが彼らにはここで消えてもらう」
『……は?』
動けない海の横をすり抜けて男は新八たちの元へと歩いていく。彼らが動ける状態であれば、逃げろと声をかけてこの場から逃がすことは出来た。だが、今新八たちは歩くのがやっとの状態。例え倉庫から出ることが出来たとしてもすぐに追いつかれて殺されてしまうかもしれない。
『子供に手を出すなんてとんだサイコ野郎だなお前』
「戦争に子供もも大人もないでござるよ」
『そんなもんとっくの昔に終わってんだよ。時代錯誤もいい加減にしろ』
急いで糸を切ろうとするも、ギチギチに絡んでいる糸は中々取れない。動く度に締め付けが強くなり、徐々に肉に食い込んでいく。服の上はまだ幾らか大丈夫だが、手首に絡んでいる糸は血に染っていた。
「恨むならこの世に生まれた己を恨むといい」
「新八!」
「神楽ちゃん!!」
新八たちの声と刀が振り上げられる音。
その音が耳に届いた刹那、ぷつんっと切れた。
「…………あ、れ?」
「い、痛くないアル……」
身を縮こませて呟く二人。彼らは恐る恐る顔を上げてこちらを見た。
「海、さん……」
『まったく。これじゃ怒られる可能性大だろ』
「何言って……えっ……海さん!!?」
きょとんとしていた新八の顔がみるみる青ざめていく。その変わり映えが面白くてつい笑ってしまった。
「何笑ってるんですか!せ、背中が……!」
『しょうがないだろ。これしか無かったんだから』
斬られそうになっていた新八たちの前へと庇うように身を滑らせた。その結果、男の刃を背中で受け止める形になってしまっている。
糸の拘束を無理矢理解いてきたせいで全身血まみれ。そして斬りつけられた背中からはどくどくと血が流れている。
「子供を守るために己を犠牲にするとは」
『子供は命懸けで守らないとだろ』
海を斬りつけたあと後ろへと引いた男は刀に付いた血を振り払っていた。
『まったく。とんだ非番になっちまったな』
桂が屯所に忍び込んできた時点で今日は厄日だと思っていたが、桂以上にめんどくさい人間がいた。この男をどうにかしなければここから逃げられないし帰れない。遅くなれば銀時と桂が探しに来るだろうし。
ここは早く終わらせないと。
『カップラーメン一つ分ぐらいで終わればいいけど』
「見くびられては困るな」
『そう言われましても。今、とてつもなく腹たってるから。ストレス発散させてくれよ。お前が原因なんだから』
相手の答えも聞かずに走り出す。全身に襲いかかってくる痛みに呻きそうになるが、歯を食いしばって痛みを耐えた。
男が操る糸を斬り、構えられた刀を叩き折った。
「これは……」
『あー、悪い。やり過ぎた』
相手の肩に深々と突き刺さった刀。呆然としている男を鼻で笑ってから刀を乱暴に引き抜いた。
『スッキリしたからこれで勘弁しといてやるよ。その肩じゃ刀だって握れないだろ』
スッキリしたのは嘘だが、これ以上やることもないだろう。男が張っていた糸も力を失って地に落ちているし、あの傷では自由に腕を振るうことも出来ないはず。
それに子供らの前でこの男を殺してしまっては目覚めが悪い。
「海さん!!」
『今行く』
新八の泣きそうな声に返事をし、座り込んでいる男に背を向けた。
「大丈夫なんですか!?」
「海!血が!!」
『大丈夫大丈夫。そんな心配しなくても大丈夫だって』
「で、でも足元真っ赤ですよ!?」
『掃除が大変そうだな。早めに片付けないと残りそうだ』
背中から垂れている血は倉庫の床に染み込んでいく。誰の血かもわからないものが残っているなんて気味が悪いだろう。
自分には関係の無いことだが。
「海さん!早く病院に行きましょう!?」
『後で行くっての。それよりここであった事は銀時たちに話すなよ?』
「なんでアルか!!」
『そんなの決まってるだろ。面倒臭いことになるからだよ』
「めんどくさいってそんな……!」
『いいから黙ってろ。俺もそのまま帰るから』
でもでもと繰り返す二人をなんとか説得し、銀時たちにはここであった事を一切話さないと約束をさせた。
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