第10幕
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桂とは逆方向へと走った海たちは船内の中をひっそりと歩く。扉を開ける度に誰かいるのではないかと辺りを警戒していたが、誰にも会うことなく安全に逃げることが出来た。桂が外で敵を引き付けていてくれているおかげだ。
「海さん……ここの道さっきも通りませんでしたか?」
『え?そうか?』
「海、そこの道もさっき通ったアルヨ」
『あれ?』
「海さん……もしかして迷子になったんじゃ……」
『そんなことねぇよ。ほら、あそこ扉開いてる。そこから出れば外に行けるだろ』
突き当たりの部屋の扉を指差して進む。
神楽と新八が怪しそうな顔で海を見ていたが気にせず歩いた。別に迷子になったわけではないと自分に言い聞かせて。
ちょっと道わからなくなっただけだから。やたらと入り組んでいるここが悪いだけだ。
開いていた扉の奥は広々とした部屋。沢山の木箱が置いてあるところからして倉庫のようなものだろう。転生鄉は桂が全て爆発で吹き飛ばしたからここにあるものは薬では無いはず。
ただの物資、にしては一つ一つの箱のサイズがバラバラすぎる。縦長の物もあれば、両手で抱えられるくらいの真四角の箱。そんなもんどうやって運び入れたんだと聞きたくなるくらい大きな箱も置いてあった。
何が入っているのか確認したいところだが、今は子供たちを連れている身。下手に手を出してしまって、取り返しのつかないことになっては面倒だ。
『……早くここを出るぞ』
箱に貼られているラベルを見つつ新八たちに声をかける。だが、返事が返ってくることはない。
「海さん……これ武器ですよ!」
その言葉に驚いて振り返ると、新八と神楽は箱の中身を引っ張り出していた。
『新八、神楽!漁るな!』
海と同じように箱の中が気になったのか
、新八と神楽は木箱の中をがさがさと漁っていた。慌てて二人の首根っこを引っ張って木箱から引き離したが、荒らされてしまった木箱はそのまま。緩衝材として入っていたクッションは辺りに散らばっているし、納まっていたはずの銃も半分顔を出している状態。
『勝手にいじるな』
「ご、ごめんなさい……」
「でも、海。あれ何に使うアルか?」
『武器の使い道なんか決まってるだろ。人を傷つけるために使うもんだ。もしかしたらここにあるもの全てそうかもしれない。まさかこんな船に武器庫があるなんて……』
そこで嫌な考えが浮かんだ。
この船に乗っていた天人たちは違法薬物の売買に関わっている。当然のことだが、身を守るために武器を手にしていてもなんらおかしくはない。
だが、明らかにこの量は持ちすぎだ。それにこんだけ丁寧に梱包されていたらすぐには取り出せない。なら何故こんなにも武器が積んであるのか。
『まさか武器の売買もやってんのか』
倉庫にある木箱の量を考えると自然と"戦争"という言葉が出てくる。百以上あるであろうこの箱の中身が全て武器だとしたら。これを何処に持っていくつもりなのか。売るとしたら相手は誰だ。
箱を眺めながら考え込んでいた時、倉庫に誰かが入り込んできた気配を感じて刀へと手を伸ばした。
「そのまさかだよ。お嬢さん」
背中に三味線を背負い、頭にはヘッドホン。そしてサングラスをかけているという異様な格好の男が、海たちが入ってきた扉を背にして立っていた。
「ここまで入られてしまったのは拙者の不手際でござるな。済まないがお主たちには消えてもらうとしよう」
「海さん!」
『下がってろ』
「でも、海!」
『いいから。お前たちはまだ動けないだろ?』
薬で足元がしっかりとしていない二人を背に隠すように立つと、男は数回頷いた。
「子供を守るとは……さすがでござるな。母性本能といったところでござるか」
『悪いけど俺は女じゃねぇんだわ』
刀を抜いて一気に男との間合いを詰める。横一文字に刃を振り払ったのだが、視界に男の姿はない。
「……女装趣味か」
男は何も無いところに立っていた。否、目を凝らして漸く見えるくらいの細い糸。その上に立っている。糸の上に立つなんてこれまで見たことがない。人間を乗せられるほどの強度のある糸なのだろうが、刀で切ってしまえばなんてことはないはず。
『そんな趣味を持ったことはない』
再度、男へと刀を振り下ろすが、男自身に刃が届くことは無かった。しかも、切れると思っていた糸は海の身体に巻き付き、刀にもまとわりついた。
『くっ……』
「無理に動けば四肢が千切れるでござるよ」
いつの間にか海の周りにはいくつもの糸が張り巡らされていた。どれも海を拘束するために伸びている。男の言う通り、無理に力を込めればこの糸は肉に食い込む。
「所詮この程度でござるか。聞いてた話とはまるで違うな」
『誰に何を聞かされたのかはしらねぇけど、勝手に呆れられるのはムカつくんだが?』
"弱い"と遠回しに言われている気分。別に自分は強いと思っているわけではないが、ため息をつかれながらそんなことを言われたら誰だってムカつくだろう。
まとわりついている糸を断ち切ろうと刀に力を込めた瞬間、男は海から顔をそらした。
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