第29幕
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しんと静まり返る部屋。机の上に置いてある蝋燭の火がどこからか入り込んだ微風で揺らめく。
隊士たちが寝静まっている深夜。そんな時間帯に海は酒を片手に本に目を落とす。
こうしてゆっくりと本を読む時間もないくらいに仕事に追われていた数日間。やっと一息つける時間を見つけて、自身の趣味に没頭している。
ぺらりと紙をめくれば、難しそうな単語がずらっと並ぶ。何か新しい知識でも学ぼうと思って手に取った専門書。適当に取ったものなので、飽きたら別の本を読もうと思っていたのだが、思いの外内容が面白く見入っていた。
銀時たちと騒がしくしている日々も楽しいが、こうして一人の時間を満喫出来るというのも悪くは無い。
『……そういえば今日って満月だったか』
文書の中に月に関するものが出てきて、ふと顔を上げる。朝、テレビで見た結野アナのお天気予報を思い出す。
今日は雲一つない空。綺麗な満月が見れるだろうというものだった。
読み途中の本に栞を挟み机に置く。長らく本を読んでいた体は固まっていて、少し動くだけでも骨が軋む音が身体中から聞こえる。
なんとか重い腰を上げて襖へと手をかける。静かに戸を開けて空を見上げると、これまた大きい月が真っ暗な空に浮かんでいた。
『月見酒もいいかもしれないな』
春の丁度いい暖かさ。縁側でゆっくりと酒を嗜むのもいいだろう。
酒を取りに行こうと食堂へと向かう。
日本酒を一瓶手に持ち自室の前へと戻ると、先程まではいなかったはずの人物がそこにいた。
『眠れないのか?』
「いや、今まで仕事してた」
『夜くらいゆっくり休んだらどうだ?』
「てめぇに言われたくはねぇがな」
黒い着流しに身を包む男。片手にはお猪口を持ち、月を眺めながら口を動かしていた。
『仕方ねぇな。酒ぐらいなら付き合ってやっても構わねぇよ』
「そうか。なら少し付き合え」
土方に隣座れと促され、海は土方の横に腰を下ろす。持ってきた酒をお猪口へと注いでちびちび飲む。
『今日は綺麗に見えてんな』
「そうだな。明日も雲がねぇらしい」
『そうか。なら明日は近藤さんも呼ぶか』
「近藤さんが来たら騒がしくなるだけだろ」
『確かに。あの人ゴリラだからな』
「てめぇ、上司をゴリラ呼びすんじゃねぇ。ゴリラはゴリラでもあのゴリラは普通のゴリラじゃねぇ。マウンテンゴリラだ」
『ゴリラゴリラうるせぇな。しかも種族までは聞いてねぇよ』
声を荒らげて叫びたい衝動をぐっと抑える。もう酒が回ったのか?と土方の顔を見る。普段と変わらない顔で月を眺める土方は素面のまま。
近藤のことを本気でゴリラと思っていたのかと苦笑いを浮かべる海。
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