第四十八幕
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「辛気臭え顔してるじゃねぇか」
ヒストリアの執務室を出て暫くしたところでリヴァイが呟いた。
『いやぁ、これまでの事を考えてみたらさ。よく生きてこれたなって』
「は?」
『死んでてもおかしくない状況を何度も経験してるんだよ。今改めて思うとなんで生きてられるんだろうって』
調査兵団に入ってから、いやそれ以前にも死が近いと思ったことがある。
子供の頃に罹った流行病で死にかけた。あの時はエレンの父親が助けてくれたから助かったが、自分より後に流行病に罹った妹は治療が間に合わず死んだ。もう少し遅かったらカイも死ぬところだったと言われ、初めて死の恐怖を知った。
それから兵団に入り、初めての壁外調査で巨人と遭遇した。立体機動が壊れて逃げられなくなったときも死を覚悟したけど、リヴァイが助けてくれたおかげで生き延びた。
ケニーに追われた時も、訓練兵たちを補給本部に連れ込んだ時も、女型の巨人に襲われた時も。死んでいてもおかしくない場面ばかりだ。
『しぶとく生きてる。でもそろそろ危ない気がするんだ』
「何言ってんだお前」
『……なんだろうな。今までどっちでもいいと思ってた。このまま生きていても意味あるのかって。ここいらで死んだとしても未練は無いって』
「おい、カイ。てめえそれ本気で言って──」
キレそうになっているリヴァイを手で制止させてカイは続けた。
『そう思ってたのに。俺……死にたくないんだ』
カイの言葉にリヴァイは目を見開いて口を閉じる。
『分かってるよ。思い通りにならない事くらい。みんな死にたくないって思いながら死んだんだから。分かってるよ……』
「カイ」
『ごめん。俺まだ死にたくない。まだ……まだ貴方の側に居たい』
生きていたい理由がそんなことかと笑われてしまうかもしれない。それでもカイにとっては大きな理由だ。
「死ぬと決まったわけじゃねぇ。勝手に死ぬな」
『でも……』
「言ったはずだ。助けると」
──どこに居ても助けてやる。
『……もし間に合わなかったら、どうするんです』
「その前に生きる努力をしろ。お前、以前俺やハンジが死ぬところを見たくないと言ったな。それをそっくりそのまま返してやる。てめえの遺体の回収なんざごめんだ」
調査兵団に戻りたくない理由としてリヴァイたちに言った言葉。まさかそれをここで返されるとは。
『よく覚えてますねそれ』
「お前だけが思ってる事じゃねぇからな。俺やハンジ、他の奴らだって同じだ」
誰にも死んで欲しくない。そう願っても叶わないのがこの世だ。
死なないように気をつける。それくらいしかカイたちには出来ない。
『リヴァイさん』
「なんだ?」
『いつも助けてくれてありがとう』
「どういたしまして」
『ヒストリアに悪いことしちゃったな』
「何か言ったのか」
『必ず戻るという約束は出来ないよ、って言ったら泣きそうな顔されちゃってさ。私も一緒に行く、ってヒストリアに言われそうだったんだよ』
「……ちょっと待て」
カイの言葉にリヴァイはピタリと足を止める。どうしたんだ?と声をかけながら振り返ると、リヴァイは暗い表情。
『え、なに?どうした?』
「お前いつの間にヒストリアのことを誑かしやがった」
『たぶ……!?』
「いつだ。いつから好意を持たれた!」
『え?は!?いや、そんなわけないだろ。あれは保護者が居なくなるから心配ってだけじゃねぇの!?』
「そんな軽い気持ちでお前について行くとは言わねぇ!だから言っただろうが、無闇矢鱈に構い倒すなと!」
トロスト区の壁上までの間、ひたすらリヴァイにヒストリアとの関係を問い質された挙句、他の104期との仲まで疑われ、現地についた時にはカイはもうクタクタになっていた。
「どうしたの?カイ。なんかやつれてるけど」
『なんでもない……とりあえず……はやく試運転をしてくれ』
「う、うん。ちょっとリヴァイ、あんた迎えに行ったんじゃないの?」
「知るか。とっとと進めろ」
「なんなの?なんでそんな機嫌悪いの?」
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