第四十八幕
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中央憲兵が隠し持っていた資料をハンジに提供してから数週間後、トロスト区に対巨人兵器が完成したとの報せが来た。
これが成功すれば、誰も死ぬことなく巨人を倒すことが出来る。
『ということなんで、自分は新兵器の確認のためトロスト区に行ってきます』
「はい。お気をつけて」
『何かあれば伝令を飛ばしてくれ。すぐに戻るから』
中央を離れると言うと、ヒストリアは途端に不安げな顔を浮かべる。女王になってからまだ数ヶ月。ザックレーが指揮を取っているとはいえ、形だけの王とならないようにヒストリアも頑張って動いている。
それでもまだ不安は潰えないのか、カイがこうして側を離れる度にヒストリアは迷子の子猫のようにシュンとしてしまう。
そんな彼女にカイは苦笑いを零しつつ、安心させるように言葉をかける。
『急を要する書類はあらかた片付けてあるから。変なことが起きなければそう焦ることは無いよ。わからないことがあったらザックレー総統に声かければいいし、俺が戻ってくるまで保留でも構わないから』
「いえ、私の仕事ですから。なんとか頑張ってみます」
『そうか?張り切って仕事すんのもいいけど、たまには気を抜くのも忘れないようにな。孤児院関係でバタバタしてたから休めてないだろ』
孤児院が出来てからというものの、ヒストリアはほぼ毎日子どもたちの所へ顔を出している。まだ正式にあの子たちの世話をしてくれる人が見つかっていないからだ。
ヒストリアの負担を減らすために孤児院の管理をしてくれる人を募集しているのだが、中々適役を見つけられなくてカイも困っている。今はまだ自分が居るから何とかなっているが、これからどうなるかわからない。
「カイさん」
『ん?なに?』
出掛ける準備をしていたカイの背にヒストリアの声が掛かる。
「……行かれるんですか?奪還作戦に」
『行くよ』
迷いなく即答すれば、ヒストリアはキュッと唇を引き結ぶ。
「そう、ですか」
『ヒストリア、一応言っておく』
これは言っておかなくてはいけないことだ。
準備していた手を止めてヒストリアと向き直る。
『戻ってこられるかはわからない。ザックレー総統には俺がもし戻らなかった時のことを想定して頼んである』
「そんなっ……!」
『後釜を探すのは大変だろ?だから、ザックレー総統と相談して、ウォール・マリア奪還が成功した後の事を色々とまとめといた。領地が戻ったとしても復興にそれなりの時間が掛かる。人手も必要になるし、住居の建設資材の確保も先に──』
「カイさん!!」
バンッ!と机を叩いてヒストリアは立ち上がる。両目からボタボタと涙を落としながらカイをキッと睨んだ。
「そんなことを聞きたかったんじゃないんです。私は……私は……!」
『必ず戻るとは言えないよ。何があるか分からないから』
約束は出来ない。もし約束をしてしまって、戻れなかったとき。嘘をついてしまったことになるから。戻ってくると信じて待ち続けたヒストリアを裏切ることになってしまう。
それなら最初から期待を持たせない方がいい。
『知ってるだろ?調査兵団の死亡率』
「でも……それでも貴方は……」
『今までは運が良かっただけだって。次はどうなるか分からない。だから期待はしないでくれ』
突き放す言い方になってしまうが、これが一番の優しさだと思う。
「それなら私も一緒に──」
コンコン、とヒストリアの言葉を遮るように執務室の扉がノックされる。
『はい、どうぞ』
ノックしてきた相手に声をかけると、かちゃりと静かに扉が開かれた。
「失礼する。新兵器の試運転がまもなく始まるとのことだ。立ち会い人のカイを迎えに来た」
扉の先から顔を出したのはリヴァイだった。部屋の中に流れる雰囲気を悟ったのか、彼はなんとも言えない表情でカイとヒストリアを交互に見やる。
『時間か。じゃあ、俺は行ってくるから』
「……はい」
すっかりしょげてしまったヒストリアになんて声を掛ければいいかわからない。椅子に座って俯く彼女に行ってきます、と言おうとして止めた。
『(今はそっとしといた方がいいか)』
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