第四十七幕
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~Levi~
『すみません……。本当にすみません』
「謝るのは俺じゃなくて下にいるガキ共に謝れ。てめえ一人のために何人が探し回ってると思ってる」
『いや、本当に面目無い……』
屋根の上にいたカイはリヴァイを見て驚き、そして泣き出しそうな顔で縋りついてきた。
何をやっているんだと叱りつけると、カイは申し訳なさそうに降りられなくなったと呟く。分かりきっていた事とはいえ、こうして言葉にされると呆れて何も言えなくなる。
「ここまでどうやって上ってきたんだ」
『梯子があったからそれ使って。でも、屋根に上ったら落ちちゃったんだよ』
「それで下りられなくなったのか」
『はい。飛び降りようにもこの高さじゃ絶対死ぬだろうし、助けてもらおうと思ってジャンたちに声かけたけど聞こえないみたいで』
声をかけたけど出てこないとミカサが言っていたのはこのせいか。
カイにミカサたちの声が届いておらず、その逆もしかり。これでは見つからないはずだ。
「お前、俺が来なかったらどうするつもりだったんだ」
『……屋根の一部分を外して、どっかから中に入れないかなぁ……とか』
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ。建物を壊す前に俺を呼べ」
『え?あ、うん』
「おい……なんだその顔は」
『いや、えっと、』
ぽっと顔を赤らめたかと思えば、カイはふいっと顔を逸らした。口元は手で覆い隠され、瞳は動揺しているのか左右に揺れ動いている。
『こんな、ことで呼んでいいの……か』
「俺が来なかったらお前はずっとここにいる羽目になってただろうな。隠れんぼ如きで本気出してんじゃねぇよ」
『ごめんなさい』
下がった頭にため息をつきながら手を伸ばす。雑に撫で回していたら、カイに腕を掴まれて止められる。
『今はちょっと頭触んないで欲しい』
「あ?まさか怪我してんのか?」
『違う。ここから下りようとして動き回ってたから汗かいてるんだよ』
確かにカイの髪はしっとりとしていた。指先についた水滴をリヴァイはじっと見つめる。
「別に汗くらい気にしねぇよ」
『俺が気にするんだって。つかあんま触りたくないだろ。ベタベタして気持ち悪くないの?』
そりゃ気持ち悪いに決まっている。自分の汗でさえ嫌なのに他人の汗となったらもっと嫌だ。
それなのにカイの汗は嫌な気がしない。汗なんてどれも同じなはずなのに、何故かこいつのは許せる。
「慣れたか」
『え?なに?』
「お前、汗どころか吐瀉物を俺に掛けたこともあるだろうが」
『え゙』
体調を崩す度にリヴァイはカイの看病をしていた。そんなことをしていれば、汗だけでなく嘔吐物の処理をさせられる時も出てくる。体調が悪い奴に掃除させるわけにいかず、毎回リヴァイが片付けをしていたのだ。
今更汗ごときで気持ち悪いとは思わない。
「流石に下の処理をさせられた時は俺もどうしたものかと思ったがな」
『ちょっと待ってちょっと待って。ごめん、本当にごめん。もうなんて言えばいいのか分からないけど、本当にすみません!!』
ペコペコ謝るカイにふっと笑いが込み上げる。
「覚えてねぇだろ。風邪ひく度にダラダラ吐きやがって。事前に言えばこっちも準備が出来るってのに、お前は吐きそうになると俺の両手を掴んできやがるだろう」
『まっって!知らない!それは知らないんだけど!?』
「だろうな。わざとやってんなら蹴り飛ばしてる」
『俺そんなに吐いてる!?そんな撒き散らしてた!?』
「ああ、三回は掛けられてる」
『そんなに!?!?』
「部下の世話してんのか、ガキの世話してんのか分からなくなるくらいにな」
『あ゙ーー!!!その記憶今すぐ消してくれ!!頼むから!!』
「無茶言うな。それにどうせこれからも同じことすんだろ」
『同じこと!?』
カイがまた体調を崩したら世話をするのはリヴァイだ。他の誰でもない。次、カイが吐きそうになったときは瞬時に対応出来るだろう。嘔吐の兆候はもう覚えたから二度とかけられる恐れはないはず。
「見られたくないってんなら体調には気をつけることだな」
ガクッと項垂れたカイの頭をわしゃりと撫でる。
その時、下から誰かに呼ばれた気がして、リヴァイはハッと思い出す。
「カイ、下でハンジが待ってる。下りるぞ」
『ハンジが?なんで?』
「新しい武器の相談がしたいってよ」
『なんで俺に?それは開発の人間とした方がいいんじゃねぇの?』
「お前、中央憲兵が隠し持ってた資料を持ってるそうだな。それの開示を頼みにきた」
『あー……あれか。わかった』
書類関連のものは全てカイが管理している。ザックレーに開示を求めても、カイが居なければ勝手はできないと言われてしまったため、リヴァイとハンジはカイの元へ訪れた。
「エレンの硬質化で得た材料を元に兵器を作るらしい。試作ができた時はお前も立ち──何やってんだ」
『え?だって下りるんだろ?』
「そりゃ……そうだが……」
『ん、』
ハンジたちの方へと顔を出したのち、カイの方を振り返ったリヴァイは思考が一瞬止まった。
抱っこをせがむ子供のようにカイはリヴァイに向かって両手を伸ばしている。
「やけに素直じゃねぇか」
『自力では下りられないからなぁ。もう仕方ない。リヴァイ、下ろして』
素直に抱っこしてくれと言ってはいるが、抱えられるのが恥ずかしいのかリヴァイと目を合わせようとはしない。
「カイ」
『なんだよ』
「普段からそれくらい素直になってくれりゃ楽なんだがな」
『素直ですけど?』
「どうだか」
カイの背に腕を回し、膝裏に手を添える。しっかり掴まれと声をかければ、カイはおずおずとリヴァイの首に腕を回した。
『次はもう屋根には上らないわ』
「そうしろ。装備もないのに高いところに行くな」
『てか、なんで俺があそこにいるって分かったんだよ』
「お前はいつも高いところに隠れるだろう。索敵の癖がついてるのか、周りを見渡せるところに身を隠す」
『まさか、立体機動の訓練の時にいつも見つかってんのはそれのせい……?』
「まあな」
『うわ、まじかよ……気をつけよ』
「気をつけなくていい。そのままでいろ」
『え、なんで』
「気にして移動されちまったら探すのが大変だろうが」
どうせ知っているのはリヴァイだけだ。ハンジたちにこの事を話すつもりもない。カイを見つけ出すのは自分だけでいい。
『それはずっとリヴァイに負け続けろってことか』
「鬼ごっこでも勝てねぇんだからいいじゃねぇか」
『良くないわ!!』
耳元でぎゃあぎゃあ騒がれ、眉間に皺を寄せる。黙らせようと屋根から飛び降りたのだが、上にいた時よりもうるさくなってしまったので、途中でポイッと放り投げた。
『痛い!!投げなくったっていいだろ!?』
「耳元で騒いでんじゃねぇよ」
『いきなり飛び降りたら誰だってビックリするだろうが!』
「一々言わなきゃ分かんねぇのかてめえは」
『わかんねぇよ!一言くらい言えよ!』
「察し能力が悪すぎんだろう」
『察しが悪くてすみませんね!!』
「……ちょっと二人とも、なんか倦怠期迎えたカップルみたいな話してない?大丈夫?」
「……チッ」
『けん、た……は、はあ!?』
「あー、もういいや。うん。無事見つかったからもういいよ。うん」
ハンジから呆れた目を向けられ、リヴァイは舌打ちをし、カイは顔を真っ赤にして叫ぶ。そんなことをしていれば周囲の人間たちが集まってくるわけで、心配していたミカサたちやカイを探していたであろう子どもたちがわらわらと集まってきた。
「ちょっとリヴァイ、どうすんのこれ」
「適当にあしらってカイを連れて行け」
「そうしたいけどさ、あれじゃ連れ出せないでしょ」
子供たちに囲まれてしまって、すっかりカイの姿が見えなくなってしまった。中には泣いている者もいて、その子をあやすのに手間取っている。
「禁止だ」
「え?なにを禁止するの?」
「今後、あいつは隠れんぼ禁止だ」
ぼそっと呟いた言葉にハンジは呆けた顔。そしてゲラゲラと笑い始めた。
「あはははっ!か、隠れんぼ禁止って……あはっ、あははは!」
「うるせぇ」
「なんだよそれ、まるで母親じゃん!」
「うるせえって言ったのが聞こえなかったか?」
こめかみに青筋を浮かべながらハンジを睨む。そうすれば流石に静かになるわけで、ハンジはリヴァイに背を向けて声を殺すように笑う。
「おい、カイ!行くぞ!」
子供に揉みくちゃにされているカイに声をかけてからリヴァイは馬へと乗る。リヴァイの馬の傍に居たアデラインがカイを見てやれやれとでも言いたげな顔でふん、と鼻を鳴らした。
「お前のご主人様は子供に大人気で困るな」
リヴァイの言葉に賛同するようにアデラインは頭を動かす。そんな彼女の頭をリヴァイは優しく撫でつけた。
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