第四十五幕
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『あの……』
「なんだ」
『ひとつ聴いてもいいですか』
「ああ」
『いつから……俺の事好きだったの』
「自覚したのはこの間の壁外調査の時だ」
布団を頭から被り、身を守るように身体を包んだ状態でリヴァイに話しかける。
キスだけで済む訳もなく、そのまま互いに性器を擦り合う形で果てた。脱力している間にリヴァイの手が尻へと降りていくのを感じ、驚いて飛び上がった瞬間、頭痛で動けなくなって今に至る。
『壁外調査のとき?』
「ああ。お前が生きているのか死んでいるのか分からなかった時にな」
女型に吹っ飛ばされて気絶していた時のことだ。エレンが女型に連れ去られてしまったからリヴァイはカイの捜索を中断せざるを得なかった。
その時にリヴァイはカイの事が好きだと気づいたらしい。
「そういうお前はどうなんだ」
『俺は……いつからだろ』
「少なくとも俺がキスする前からその気があったってことだろ」
『それは、まあそうですけど』
「……カイ、お前"シグルドがいた時から"気があったな?」
『え?』
突然シグルドの名前が出てきて固まる。
「初陣の後からアイツに対してよそよそしくなっただろう。俺がお前を抱えて飛んじまったから」
確かにシグルドとはあの日からあまり話さなくなった。でもあれは仕方なかったことだ。立体機動装置が壊れて使えなくなり、リヴァイがカイを運んでくれた。
その事でシグルドは急に機嫌が悪くなったのだ。あの時に見た目つきは今でも思い出せる。冷ややかな目で自分を見ていたシグルドの顔も。
「好きだったんじゃないのか?アイツのこと」
『な、なんで知ってるんですか!?』
「見てれば分かる。それにあいつもお前のことを好いていたしな」
『え……』
「アデラインの件でお前と関わりを持つようになってからどれだけあのクソガキに牽制されたと思ってんだ。俺だけならまだしも、アイツはエルヴィンにも言ったんだぞ」
『ええっ?クソハゲに!?というか牽制ってなに!?』
「まさかまだ知らねぇとは言わねぇだろうな」
ゲンナリとした顔をするリヴァイにカイは疑問符しか思い浮かばない。
自分が知っているシグルドは誰とでも仲良くなってしまうような青年。人が嫌がるようなことはしないし、滅多に喧嘩をしない。
ただ、たまに恐ろしいと思う一面もあった。冷たい目を向けられた時もそうだし、新兵の時に世話になった班長が亡くなったときにシグルドが言い放った言葉。
『シグルドは……どんな人……だったんですか』
深い溜息の後、リヴァイはぽつりぽつりと話し出す。
「あれは独占欲の塊だ。お前に執着していた。カイに関わろうとしている奴らを裏で遠ざけさせてな」
『そんな、こと……』
「訓練兵時代、孤立していたそうだな。お前の同期から聞いた。女どもからは嫉妬心で睨まれ、男どもからは恐怖心からはぶかれていたそうだ」
そんなこと知らない。
『なんですか……それ』
「全てシグルドが裏でやっていたことだ。お前を孤立させることで自分を頼るだろうと」
シグルドがそんな事をするわけがない。そんな事をしてなんの意味があるんだ。
「調査兵団に入ってからも同じことをしていた。班の奴らに対してもそうだが、特に俺に対しての当たりが酷かったもんだ」
『……そんな。俺はてっきり仲がいいもんだと。良く話してたのを見たから』
「馬鹿言え。顔を合わせりゃ睨まれ、口を開けば"カイに近づくな"ってキレられてたんだからなこっちは」
そんなこと全く知らない。気づきもしなかった。
だってシグルドはいつも……。
『俺に……だけ……?』
誰にだって笑いかけていたはずだ。あの人あたりの良さそうな笑みで。
でも今思い返すと違和感がある。
『目が……笑ってなかった』
「あいつが"笑う"のはお前に向けた時だけだ。他の奴らには愛想笑いどころか冷笑に近かったな」
リヴァイから聞くシグルドの印象と自分の中でのシグルドのイメージが全然違う。
今まで見てきたシグルドは一体なんだったんだ。
『俺はちゃんとシグルドのことを見てなかったんだ』
「それもあるが、シグルドがお前に見せないように徹底してたのもある。それほど手放したくなかったんだろう」
『でも……死んだ。巨人に食われて、俺の目の前で』
「カイ、その事だがお前のき──」
『なんで!!なんで死んだんだよ!!』
ギュッと拳を握ってベッドに叩きつける。
『どうして……!人に生きろって言っておきながらお前が死んでんじゃねぇよ!!』
もうここには居ない相手に対して怒ったって仕方ないこと。それでも何度もベッドに拳を振り下ろした。
「カイ、怪我に障る」
振り上げた手がリヴァイに掴まれる。その手を振り払おうとしたが、しっかりと掴まれていて外せなかった。
『なんで……』
「死んだやつに聞いたって分かりゃしねぇよ。アイツだって死にたくて死んだわけじゃねぇ」
『俺を庇ったから。俺なんかを……』
本当はカイが巨人に食い殺されるはずだった。両親の死体を見つけて呆然としていたカイに巨人は手を伸ばしていたから。そこに割って入ったのがシグルドだ。突然突き飛ばされて訳が分からなくて。
気づいたらシグルドは巨人に噛まれていた。利き腕の右腕を食われ、足を掴まれ……。
『あ、れ……?』
「どうした?」
『シグルドは……"食い殺された"んです、よね?』
シグルドが死ぬ瞬間をしっかり見ていた。なのにどうしてか記憶が曖昧だ。巨人に掴まれて食われた。でも一飲みされたわけじゃない。確か腕を食いちぎられてもがいていた足を引っ張られて。
『ち、がう……シグルドは……食われたんじゃない……?』
「カイ、落ち着け」
『シグルドは……巨人に……』
「カイ!!」
大きな声で名前を呼ばれてビクリと肩が跳ねる。どうしたんだとリヴァイを見ると何故か青ざめた顔でカイを見ていた。
「無理に思い出そうとするな。今日はもう休め。怪我してるのを忘れたのか」
『あ……あー……うん。ちょっと眠い』
「寝ろ。夕飯はここに持ってきてやる」
『ありがと』
言われるがままベッドに寝転ぶ。布団を被っているはずなのにやけに下半身が寒い。なんでだ?と不思議に思ったが瞬時に自分がズボンを履いていないことを思い出した。
『リヴァイ!!あ、あの、下着の替えが欲しいんだけど!!』
「あ?ああ……濡れちまったからな。後で持ってくる」
『いや出来れば今すぐがいいんだけど。これじゃ部屋から、というか布団から出られないだろ』
「出なくていい。ここには誰も来させないようにする」
『いやいやいや、流石に下着履いてないのはキツイって』
誰も来させないと言っても絶対誰かしら来そうだ。特にハンジやエルヴィンは。
「鍵かければいいだろ」
『部屋の鍵を壊した奴が良く言う』
「……忘れてた」
昔からリヴァイはカイの部屋の鍵を壊す癖がある。エレンと共にいた古城でも山小屋の時もだ。何故かリヴァイはカイの部屋の鍵だけを壊す。
『誰でも入れるような状態の場所で下半身露出したままはイヤだ』
「はあ……。分かった。すぐに持ってこよう」
『そうしてくれ。頼むから』
持ってきてくれるなら安心だ。リヴァイが下着を持ってくるまでは眠れなくなってしまったが。
「持ってきてやるから寝てろ」
『履いたら寝るよ』
「大人しく寝てろ。履かしてやるから」
『は……はあ!?なんでそうなる!?』
「別に恥ずかしがることはねぇだろ」
『恥ずかしいだろ!!ひ、人の……その、』
「二回も三回も変わらねぇよ。それに今恥ずかしがっててどうする。これから何度も見ることになるってのに」
これから何度も見ることになる。
その言葉にカイの顔は一気に真っ赤に染まる。
『い、いいから!!自分で履きますから!!だから持ってきてください!!!』
「うるせぇな。下着ぐらいで騒ぐんじゃねぇよ」
呆れたようにため息を零すリヴァイの背中をどんっと叩く。じろっと鋭い目で見られたが、怯むことなく何度も叩いた。
『ほら!早く!!誰か来る前に!!』
「はいはい。まったくわがままな姫さんだ」
『誰が姫だ!!!それならリヴァイは……えっと、』
「王子様っていうガラじゃねぇな」
『毒林檎を渡してくる魔女か……うわ、怖』
「おい。それこそ逆だろうが」
寝転がっていたカイの顔の横に手を付き、リヴァイは顔を覗き込んでくる。
「大人しくしてろ。寝てたら起こしてやる。お望みのキスでな」
『は……は、は……』
額に優しくキスをされ、カイはパクパクと口を動かす。そんなカイにリヴァイはふっと微笑んだ。
「おやすみ」
『お、やすみなさい……』
首元まで布団を被せられ、ポンポンと布団越しに撫でられたあとリヴァイは部屋から出ていった。
『え……なんか、いつもと……違く……ねぇ??』
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