第二十六幕
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「カイッ!!」
『くっ……!』
咄嗟に足元にアンカーを刺しておいて良かった。ライナーとベルトルトの巨人化によって周りに爆風が巻き起こり、ミカサたちは次々に吹き飛ばされていく。
「なんで……こいつらが!」
『そんなことは後だ!しっかり掴まれ!』
エレンの手を握っているが、風が強すぎて離れてしまいそうだ。立体機動を持っているからこの高さから落ちても受身は取れる。でもこの手は離せなかった。
「なんで……なんで!!」
『だーっもう!そんなの後でいくらでも聞けるだろ!!』
このままでは飛ばされてしまう。ライナーはエレンをどこかへ連れていこうとしていた。エレンがついてくるなら壁には手を出さないと言って。
『ふっざけんな!こいつを連れていかせるわけねぇだろうが!!』
飛んで行きそうなエレンを必死に繋ぎ止めて抱きかかえる。背後で巨人が形成されていくのを恐ろしく思いながら、エレンを強く抱き締めた。
「カイ!俺のことはいいから!」
『良くない!お前が連れていかれたら俺の任務は失敗すんだよ!それに……あんなわけわかんねぇ連中に大事な弟分を明け渡すわけねぇだろう!』
「俺は弟なんかじゃ……!」
『そんな細かいこと気にすんなバカ!!』
今はここからどうやって逃げるかだ。壁の内側に逃げるという手もあるが、そうなれば彼らもこちら側へとついてきてしまう。何とかしてハンジたちの元へと戻らなくては。
『クッソ!これなら俺もミカサと一緒にやってればよかった』
ライナーとベルトルトに刃を向ければよかった。そうすれば確実に首を狙えたはずだ。その場合、彼らが喋れる状態なのかは不明だが。
「あっ……」
『今度はなん──』
「カイ!エレン!!」
ミカサが自分たちに向けて手を伸ばしている。何をそんなに怖がっているんだ。
「そんな……まさか……カイ!!早く逃げろ!!」
『ハンジ?何言って……』
スッと自分の周りにだけ影が差す。頭上に何かがあるのを感じて振り返る。
「カイ!」
『エレン!逃げろ!!』
真上にあるのは巨人の手。自分たちを掴もうと手のひらが迫ってきていた。
エレンを壁の内側の方へと突き飛ばし、トリガーに剣を装着する。迫り来る手を切り刻もうと刃を振ったが粉々に砕け散った。
『クソッ……!』
立体機動の刃が全く通らない。このままでは潰されると身構えたが、鎧の巨人はカイを潰すどころか掴みあげる。
だが、持ち上げると同時に力が込められてしまい、立体機動がバキッという音をたてて壊れ、その破片が腰に刺さる。
『いっ……』
ズキッとした痛みが全身を駆け巡り、身体から一気に力が抜けていく。
「カイ!!ライナー!やめろ!!!」
突き飛ばしたはずなのにエレンは立体機動でこちらへと戻ってこようとしている。風で上手く飛べないのにどうにかしてカイの元へ来ようと抗っていた。
『逃げろ……って……言ったのに……なんで戻ってくんだ……ばか』
痛みで何も考えられない。ぐったりと鎧の巨人の手の中で大人しくしていると、顔が徐々に近づいてくる。
「嘘……だろ」
ガバッと口が開いたかと思えば、ポイッと口の中へと放り投げられた。ぬちゃりとした気持ち悪い感触と生暖かさ。飲み込まれることなく口の中に残される。
エレンが必死に手を伸ばしてくれているが、その手を掴むことは出来なかった。
『エレ……ン……』
痛みで徐々に意識が薄れていく。むしろこの痛みを感じ続けなくてはいけないというならこのまま気絶してしまった方が楽だ。巨人の中で意識を失うなど自殺行為に等しい。とはいえ、立体機動が壊されてしまった今、カイが出来ることは何も無かった。
──俺の知らないところで死ぬな。必ず生きて戻ってこい。お前が帰る場所はここだ。
ああ、戻らないと。
『リ……』
帰らないと。
『……たす……て』
死にたくない。帰りたい。リヴァイの元に。
手を伸ばして外に出ようとするカイの視界で無情にも鎧の巨人の口が閉められていく。暗くなっていく口内。もう逃げられないのだと悟った時、涙と共に笑いが込み上げてきた。
『(自業自得だ。こんなの)』
「あ、ああ……あああぁあぁぁあ!!!」
エレンの絶叫が聞こえたのを最後に、カイの意識はプツリと途絶えた。
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