第四十三幕
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地下街へと続いていく道を歩いている間、エレンと今後のことについて話し込んでいた。
「なあ、カイは調査兵団抜けるのか?」
『え?なんで?』
「ヒストリアの側近になったんだろ?」
『そうだけど……』
「ならカイは中央に……行くんじゃないのかよ」
『え、やっぱ行かなきゃダメなのか?』
「ええ?だってヒストリアに仕えるなら行くんじゃないの!?」
『俺それは断っちゃったなぁ』
エレンの言う通り、ザックレーから中央に来るようには言われていた。今後会議などに陪席することが多くなるだろうと。その為、調査兵団の本部から出てくるのではなく中央に住んだ方がいいのでは?と提案された。
だが、カイはその話を全て断っている。そうすべきだというのは分かっているのだが、まだ調査兵団を離れたくない。
「断って大丈夫なのかそれ」
『今のところは。この先、ヒストリアが自分で決められるようになったら俺は必要無くなるからな。あまり関わりすぎない方が良いだろ。常に誰かに頼れる環境じゃ育つものも育たなくなるから』
だからある程度放任することも大事だと言うと、エレンは驚いた顔でカイを見た。
「付きっきりで面倒見るもんだと思ってた」
『そこまではなぁ。俺以外にもヒストリアの教育係は居るし』
「じゃ、じゃあ……どこにも行かないんだな?」
『行かないよ。ウォール・マリアの奪還も控えてるし、それに……』
「それに?」
『頼まれてるんだ。壁の外を見てきて欲しいって』
ロルフの悲願を叶えなくては。壁の外に他の人類が居るのならその人たちと対話を。そして壁の外がどうなっているのか、地の果てをこの目で見なくてはならない。
「壁の外を見る?」
『うん。知り合いがさ、壁の外について色々と考察してたんだよ。外はもっと広くて色んなものがあるんじゃないかって』
ロルフに聞かされた話を掻い摘んで話すと、エレンは目を輝かせた。
「それ多分嘘じゃないと思う」
『なんで?だって誰も見たことないんだぞ?』
「アルミンが言ってたんだ。壁の外には炎の水や氷の大地、砂の雪原があるって。外はとんでもなく広くて、その大半が海っていうので出来てるって」
『それ……もしかして禁書なんじゃ』
エレンはハッとして口を閉じる。狼狽えるように目があっちこっち行き来したあと、恐る恐るカイを見つめる。
『そっか。壁の外は色んなもんがあるんだな』
「カイ……」
『そんなビビるなよ。誰にも言わないから。なんなら俺だってロルフさんから聞いた事憲兵には黙り続けてんだから。これがバレたら処刑される。まあ今となっては禁書も何も無いと思うけどな』
これからは壁の外について民衆に知らせるだろう。隠し続けた真実は公表していく。例え混乱を招くことになったとしても。
『益々外に出るのが楽しみになったなエレン』
「ああ。早く見に行こうぜ」
『だな。とりあえず今はその為に色々と──』
「おい、兄ちゃんたち」
「痛っ」
話し込んでいたせいで前を見ていなかったエレンが誰かにぶつかって身体が傾く。咄嗟に手を出して支えてやると、前にいた人物がカイたちの方へとずいっと顔を突き出してきた。
「下に行きたいのか?それなら通行料を払ってもらわねぇとな?」
『うっわ、すげぇ悪人ヅラ』
「ああ?」
下へと続く道の途中、道を塞ぐように数人の男たちが立っていた。その顔つきはどれも凶悪な顔。いかにも悪さをしていますと言っている。
『通行料なんてものは持ってないなぁ』
「ならここは通せねぇよ。回れ右してお家に帰んな」
『それはそれで困る。仕事で来てるから』
「仕事だ?地下街にお前さん向きの仕事なんて……ああ、そのツラならあるか。なんだ?兵士の癖して身売りなんかやってんのか?」
「なっ、てめぇ今なんて──」
『エレン』
男に向かって殴りかかろうとしたエレンの首根っこを引っ掴んで止める。
「カイ!」
『なんかこの間も同じようなこと言われたな。そんなに俺の顔はそっち向きなのかよ』
オルブド区で憲兵に言われたことと似ている。そういえば、あの後彼らの姿は見なかった。ロッド・レイス討伐作戦で兵士の損害は出ていなかったはずなのに。
『まあいいや。俺には関係ないし』
「何ブツブツ言ってんだ。下で仕事するってんなら俺らが連れて行ってやるよ。良い店紹介してやる。そこで沢山可愛がってもらえよ兄ちゃん」
「カイッ!!」
近づいてくる男の手。その手をじっと見る。
『エレン、飛ぶぞ』
「えっ──」
男の手をすり抜け、エレンを抱えて飛び上がる。下でどよめいている奴らに背を向けて地下街の方へと飛んだ。
『何が安全に下に行けるルートだ!!』
「カイ!どうすんだよ!あいつら追って来てる!!」
『分かってる!あーもう!追われながら視察なんて出来るわけないだろ!』
後ろを振り返れば、男たちがカイたちを追いかけてきているのが見える。こちらは立体機動を使っているから今は逃げ切ることが出来るが、あの感じではカイたちを捕まえるまで追ってきそうだ。
『ど、どーしよこれ』
側近初仕事、頓挫しそうな予感に苦笑いしか出ない。
素直にリヴァイに協力を要請しておけばよかった。そう後悔してももう遅い。
適当に地下街の建物の上に降り立ち、周囲を見渡す。
『エレン』
「な、なに……」
『どうしようか、これ』
「え……ど、どうするって……」
『エレンって鬼ごっこ得意だったっけ?』
「そんなに得意じゃないけど……」
『隠れんぼは……あー、ダメだ。お前すぐ見つかるんだよな』
「何の話だよこれ」
『鬼ごっこ、または隠れんぼをしながら地下街の視察……しようかなって』
「無理あるだろ!!」
『やるしかねぇだろ!!収穫無しで帰れないんだわ!』
「だからって……ああもう!分かったよやればいいんだろ!?やれば!!」
『理解が早くて助かる!!まずはあっち!!』
地図で確認した場所へとエレンと共に飛ぶ。その後ろで男らの騒ぐ声が聞こえた。
『いいか?なるべく争い事は避けるように!』
「それもう無理だろ……」
『追われてるだけならいいんだよ!暴力沙汰にならなければ!!』
なんとかして無事に視察を終わらせたい。じゃないとリヴァイに知られた時にこっぴどく怒られてしまいそうだ。
顔に殴られた跡などつけて帰ったらなんて言われるか。
『エレン……顔だけは絶対に守れ……』
「なに!?」
『絶対に殴られるな!!いいな!?』
「無茶言うなよ!!」
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