第四十三幕
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「そうか。ならば君の提案を採用しよう。この件についてはクラウン、君に一任する」
『了解です。後で地下街に視察に行ってきます』
「ああ、気をつけてな」
ザックレーに軽く頭を下げてからカイは部屋を後にする。渡された書類をパラパラと捲って流し読みしながら先程の会話を思い返していた。
『やる事が多くなるとは思っていたけど、こんなに増えるとはなぁ。自分がもう一人、いやあと二人くらい欲しいわ』
ロッド・レイス討伐から数日後、ヒストリアは女王として冠を授かった。とはいえ彼女はまだ十代だ。壁の中の全責任を背負うには若すぎる。その為、ヒストリアの手に負えない部分は周りの大人たちが担っているという状態。
その中にカイ自身も入っている。ヒストリアが女王に就任してすぐ、カイはヒストリアの側近として身を置くようになった。秘書になろうか?と冗談で言ったのが、まさか本当のことになるとは思わず。
でも結果的に良かったらしい。新たな王に擦り寄ろうとしてくる頭の悪い貴族たちを追い払うのにカイが適任だとザックレーが言ったのだ。
とはいえ、みんながみんなカイを側近にすることを認めているわけではない。特定の兵団の者がヒストリアのそばに居ることを反対した者も少なからずいる。その中の一人は直接言ってきているし。
でもその反対意見をヒストリア自身がねじ伏せてしまった。右も左も分からないようなことを見知らぬ人間と相談なんて出来ない。それなら信頼出来る人間を傍に置きたい、と。
それで抜擢されたのがカイだったというわけだ。
『えーと……まずは孤児の確認だな。それから他の住民たちへの支援か。今まで手付かずの状態だったからなぁ……どっから着手するべきだ?』
側近としての初仕事は地下街にいる孤児たちの保護、並びに地下街に住む人間の最低限の衣食住の確保。
これに関してはヒストリアの意見だけでなく、リヴァイの言葉でもあった。地下街で生きている子供たちに支援をすべきだと。
劣悪な環境下である地下街は子供が生まれても大人になるまで生きていられる確率は地上に比べたらかなり低い。そもそも親である大人ですら生きていくのが厳しいという。
『……リヴァイはここで育ったんだよな』
地下街の事が書かれている書類をじっくりと読む。書かれているのはどれも目を疑いたくなるような言葉ばかり。地上と地下というだけでこんなにも違う。
自分が地下街で産まれていたらきっと生きられなかっただろう。こんな甘ったれな人間では。
『早く……なんとかしねぇと』
初仕事だから気合いが入っているというのもあるが、それ以上にリヴァイの故郷を良くしたいという思いもある。彼が地下街を思う度に心を痛めるようなことがないように。子供たちの元気な姿が見えるような街にしたい。
地上だから、地下だからという差が無いように。
『んー……とりあえず明日、いやこのあとすぐ見に行ってくるか。こういうのは早い方が良いだろうし……って、あれ?何やってんだ?あいつら』
廊下を曲がった先、そこにはこちらに背を向けているリヴァイと104期勢の姿があった。何故か彼らはリヴァイから目を逸らして緊張の面持ち。
『うん?お前らそんな所で何して──』
「ああああああああぁぁぁ」
『えっ』
突然ヒストリアが叫び始めたかと思えば、リヴァイに向けて一発。そんな光景にカイはぽかんと口を開け、104期の面々は驚きの顔。
「ハハハハハ!どうだー、私は女王様だぞー!?文句あれば──」
「ふふ……」
小さくとも確かに聞こえた笑い声。そしてエレンたちが怯えた顔を浮かべる中、リヴァイはポツリと呟く。
「お前ら、ありがとうな」
ここに居てはいけない。何故かそう思った。
まだ彼らに気づかれていない。このまま声をかけずにこの場を離れよう。
『別に、俺は……』
ゆっくり後退り来た道を戻る。角を曲がる瞬間、誰かに見られていた気がしたが素知らぬ顔で去った。
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