第四十二幕
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~Historia~
「お、おい……!人が降ってきたぞ!」
「大丈夫なのか!?」
「どこの兵団だ!?」
周りが騒がしい。一体何をそんなに騒いでいるんだろう。
「あれ……私……」
パチッと目を開けるとそこは暗闇。どうやら気絶していたらしく、横になる前の記憶が曖昧だ。
「君たち!大丈夫なのか!?」
「え……?」
男の人に声をかけられてヒストリアはモゾりと動く。暗闇に光が差し込み、一番に目に飛び込んできたのはカイの顔。
「カイさん!」
何度声をかけてもカイは起きることは無い。どこか怪我してしまったのかと彼の身体をまさぐるも、出血や欠損などは見当たらなかった。もしかしたら自分と同じようにただ気絶しているだけなのかもしれない。
「(何があったんだっけ……)」
カイに抱きしめられながら落ちてきたのは覚えてる。その後に強い衝撃を受けた。そこからは何も思い出せない。
「き、君があの巨人を倒したのか!?」
何があったのかを考える暇もなくヒストリアに投げかけられる言葉。民衆の方へと目を向けると、誰もが困惑の眼差しでヒストリアを見つめていた。
──女王になる覚悟は出来てるな?
そうだ。これからは女王にならなければならない。漸く解放されたと思ったら今度は強固な檻に自ら飛び込まなくてはならないのだ。
自分勝手な行動はもう出来ない。自分の発言一つで民の命運が決まってしまう。
最初、やれと言われた時はとてもじゃないけど務まらないと思った。自分なんかがそんな大役をこなせるわけないと。
でも今なら自信を持って言える。
「私は……私はヒストリア・レイス。この壁の真の王です」
瞠目している民たちの前でハッキリと告げる。己こそがこの壁の中を統治する者だと。
大丈夫だと安心させてくれたから。助けると言って逃げ道を作ってくれたから。
だからこの場に立てる。女王という仮面を被ることが出来る。
「王……だと?」
「彼女がか?」
「兵団の奴らが奪ったんじゃないのか?」
期待の眼差しと疑いの言葉。それらを一身に受け止める。こんなのはまだ序の口だ。これからもっと受け止めなくてはいけないのだから。
不安が全くないわけじゃない。支えてくれる人が居るのは分かっていても、それでも。
「(私は……本当に……)」
「あんた本当に王様なのか?見たところどこかの兵団に属してるみたいだが。まさか嘘をついてるんじゃ──」
『お怪我はございませんか?女王陛下』
「あ……」
『着地に失敗してしまい申し訳ありません』
「カイ……さん」
ゆらりと背後で起き上がったカイは流れるような動作でヒストリアの足元に跪く。
『オルブド区に接近していた巨人は陛下のおかげで無事討伐することが出来ました。陛下のお力添えに感謝いたします』
そう言ってカイは深く頭を下げる。そんな彼に頭を上げるように声を掛けようとしたヒストリアの耳に民衆のどよめきが入ってきた。
「やっぱり彼女があの巨人を倒したのか!」
「王が私たちを救ってくれたのよ!」
「女王陛下万歳!!!」
喜び舞う民衆の姿に今度はヒストリアが驚き狼狽える。こんなんでいいのか。そんなに難しく捉える必要はなかったのか。
『……現金なヤツら』
「カイさん!大丈夫なんですか?!」
民衆の目が逸れた隙にヒストリアはカイに声をかける。
『おっと。今のは内緒な?』
立ち上がったカイは喜ぶ民たちに向けて呆れた顔を浮かべながらボソリとボヤき、ヒストリアにはいたずらっ子のように笑って口元に人差し指を立てた。
『さて、これで逃げられなくなったけど』
「でも……大丈夫です。これが私の運命ですから」
『……そう。それなら俺は君の秘書にでもなろうかな』
「えっ?」
『上手く屋根の上に着地出来なかったお詫びとして』
「わざとじゃなかったんですか?」
『それがびっくり。片方のアンカー射出出来なくなっちゃったんだよな』
カチカチとカイは持っていたトリガーを引くも、飛び出したままのワイヤーは巻取られることなく沈黙している。
カイの言う通り立体機動装置が壊れてしまったらしい。だが、自分は知っている。彼が嘘をついていることを。
──カイさんって凄いんだよ!片腕で僕を抱えながら飛んだんだ!
「(いつだったかアルミンがそう言ってた。彼は私を抱えて飛べたはず)」
片方のワイヤーが射出出来なくとも、カイはヒストリアを無事屋根の上に立たせることは出来た。
そうしなかったのはこの演出の為だろう。民よりも高い位置で声高らかに王だと名乗るのではなく、彼らと同じ目線に立つ。人は皆、平等なのだと。
「カイさん」
『ん?なに?』
「これからよろしくお願いいたします」
『よろしくされるのはこっちだ。それと、ごめんな』
そう言ってカイは申し訳なさそうに笑った。
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