第四十二幕
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『準備は出来た。いつでもいける』
「ああ……」
壁の真下にまで来たロッド・レイスを見下ろすエルヴィンに声をかける。相変わらず何を考えているのか分からない表情だ。
「カイが彼女を連れてきたのか?」
『いや?俺が呼んだわけじゃない。向こうが自分の意思で出てきたんだ』
「背中を押しただろう」
『なんのことやら。反対されたら口添えはしてやるって言っただけだ』
「それを背中を押したと言うんじゃないか?」
じとっとした目で見られ、カイはスッと視線を逸らす。
『でもヒストリアの主張は間違ってはいないだろ。今まで王に欺かれてきた民衆が新たな王を素直に受け入れられるとは思えない。王に対しても兵団組織に対しても疑心を抱いている状態では民の信用を得るのは難しい。要は実績が欲しいんだよ。王として君臨する人間が下々の人間に何をしてくれるのか。目に見える形で表すしかない』
その機会をロッド・レイスが与えてくれた。人類の敵と言える巨人の姿となって。オルブド区を襲おうとしている巨人を民衆の前で倒す。
これほどにおあつらえ向きな場面があるだろうか。
「カイがそこまで考えているとは思わなかった」
『人の事バカにしてんのか。わかってると思うが、これが終わったらもっと忙しくなるだからな?王が変わることによって民衆からの糾弾にも備えないといけないし、各兵団との協議の場も設けなくてはいけない。暫くはザックレー総統が政治面を見てくれるだろうけど、追々はヒストリアが判断していかなきゃならない。その教育だって誰が──って、何笑ってんだよ』
人がどうしたものかと考えていると言うのにこの男はなに笑ってるんだ。
「いや、すまない。いつも脳天気な顔をしているから……そんなこと考えてもいないだろうと」
『クソハゲがッ!』
「ハゲてはいない。そうか……そうだな。色々と考えなくてはいけないことが山積みだ」
『だから言ってんだろうが。問題は今じゃない。この後だ』
「ロッド・レイスは必ず討ち取ると信じているんだな」
『信じる?そんなんじゃない』
「違うのか?」
『そんな曖昧なもんじゃない。ロッド・レイスはここで倒す。エルヴィン、貴方の作戦はいつも上手くいってたじゃないか。博打だなんだと言いつつも確実性がある。これが賭博で、相手がエルヴィンなら俺はしっぽ巻いて逃げるね』
確実に所持金を持っていかれる。それほどこの男は計算高い。
「そんなに当てにされているとは思わなかったな」
『人の事バカにし過ぎだろ。団長、もう少し自信を持ったらどうです?』
「……カイ、もう一回団長と呼んでくれないか」
『クソハゲ』
「違う。団長だ。俺は断じてハゲてない」
『どうせハゲるだろ』
「先のことは分からないだろう。将来ハゲないかもしれないじゃないか」
『いいや、ハゲるね。頭頂部から円形にハゲてく』
「やめてくれ」
しょうもない話をしている間に駐屯兵団が再度ロッド・レイスに向けて砲を撃ち込む。真下となれば項を狙うのも簡単なのだが、そう上手くはいかないのが世の常。
「カイ」
『了解。エレンに準備させる』
「頼む」
壁に掛かる巨人の手。そして風向きが変わったことで熱風がこちらへと吹いてくる。
『あっついなぁ』
樽の中に入っている水を桶で掬って頭からかぶる。全身ずぶ濡れの状態でエレンの元へと走り出す。
『エレン!!用意はいいか!?』
「大丈夫だ!いつでもいける!」
『よし。チャンスは一度きりだ。頼んだぞ』
エルヴィンの合図である煙弾が空へと撃たれる。準備していた罠を飛ばし、ロッド・レイスの体勢が崩れた所にエレンが爆薬を投げ込む。
『ミカサ!アルミン!』
「はい!」
「うん!」
立体機動装置のトリガーにブレードを装着して壁の内側へと飛ぶ。狙うは飛散したロッド・レイスの肉片。
『クソッ……どれが項だ!?』
素早く項を切らなければまた身体が再構築されてしまう。そうなったらもうやりようが無い。
二個、三個と肉片を切っていたら、後ろの方で爆発する音が聞こえた。咄嗟に振り返った先ではロッド・レイスの身体が蒸気に包まれている。
『誰かやったのか。一体誰が──』
「ヒストリア!!」
誰かの叫ぶ声が聞こえ、カイはそちらへと顔を向ける。
『まさかあのまま落ちるつもりか!?』
アンカーをどこかに刺す様子のないヒストリアはブレードを持ったまま民家の方へと落ちていく。
彼女に怪我をさせるわけにはいかない。そう思ってヒストリアの方へと飛んだ。
『ヒストリア!』
「カイさん!」
『何やってんだ!』
「今……私……」
『なに!?ああもう、このまま民家の方に行くからな!?』
ここからではもう壁の上には飛べない。民家の屋根に着地して上に戻った方がいいだろう。
「カイさん、私が……お父さんを……!」
『え……自分でやったのか?』
「はい……!」
『ああ、それなら嘘つかずに済むな。そういうことならこのまま突っ込む』
「突っ込むってどこにですか!?」
『民衆の中に』
落ちゆくヒストリアの身体を引き寄せて頭を抱えるようにして抱きしめる。カイの視線の先には驚いた顔でこちらを見ている民たち。
『ヒストリア、女王になる覚悟は出来てるな?』
「は……はい……」
『ん。まだちょっと頼りないけど今はそれでいいわ。仕立てたのは俺たちだから。ちゃんと助けるよ』
「カイさん……」
『大丈夫。独りじゃない』
カイの言葉にヒストリアは目を見開く。そして縋るようにカイの背中に手を回した。
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