第四十二幕
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「撃てー!!」
兵士の号令でいくつもの砲がロッド・レイスへと撃ち込まれる。図体が大きい分、着弾数も多いが効果は当てにならなかった。
「地上の大砲は更に効果が薄いようだ」
「当たり前だ。壁上からの射角にしたって大して項に当たってねぇじゃねぇか。どうなってる?」
「寄せ集めの兵士、かき集めた大砲、付け焼き刃の組織。加えここは北側の内地だ。ウォール・ローゼ南部最前線の駐屯兵団のようにはいかない。だが今ある最高の戦力であることには違いない」
「あぁ……そりゃ重々承知している。何せ今回も俺ら調査兵団の作戦は博打しかねぇからな。お前の思い着くものは全てそれだ」
最低限の物と人しか無いような場所で最高の作戦を練る方が難しい。例え人がどれだけ居ようとあの巨人相手では歯が立たないだろうけど。
『んー……どうしたものやら。とりあえずさっきの案でやってみるしかないんじゃないか?それでダメならゴリ押しでなんとかするしかない』
もうそれしか手立てが残っていない。あの巨体に人間は非力だ。
巨人には巨人を。ちらりとエレンの方を見ると、エレンもカイの方を見ていたらしく目が合った。
「上手く……いくかどうか」
「泣き言言ってんじゃねぇ。やるしかねぇんだ」
『だそうだ。疲れてるところ悪いけど……力貸してくれるか?』
「……わかった」
不安は拭いきれていない様子だったが、エレンは力強く頷いた。それに合わせてカイもゆっくりと頷く。
『まったく……今日も嫌になるくらい良い天気になりそうだ』
徐々に白けてきた空を見てため息をつく。毎度毎度、問題が起こるときは何故か晴天だ。まるで空からしっかりと見られているかのように。
『見てるなら少しくらい助けてくれてもいいんじゃないか?』
「カイ?」
『ん?ああ、こっちの話』
どうしたんだ?とエレンに声をかけられてカイはなんでもないと笑う。その向こうでリヴァイが機嫌悪そうにしているのが視界の隅に入った。
『……もう癖になってるから諦めて』
「何も言ってねぇ」
『顔が言ってる。"いつまで見てるつもりだ"って』
「分かってるなら一々言うんじゃねぇよ」
『うん。だからそろそろ止めないとなって』
「……そうか」
『だって……これが終わり次第行くんだろ?』
ロッド・レイスの件が終わり次第、ウォール・マリア奪還作戦を実施するだろう。そうなったら嫌でも向き合わなくてはならない。
本音を言えば行きたくない。出来ることなら自分だけ置いていって欲しいと思う。でもそんなわがままは通らない。それにリヴァイたちが行くというならついていかなくては。彼らが、リヴァイが巨人と戦うと言うのであれば。
『行こう。覚悟は出来てる』
「……カイ、それについてだが──」
「エルヴィン、持ってきたよー!!」
リヴァイの言葉はハンジの声によって遮られる。何を言おうとしていたのかと聞き返そうにも、リヴァイはエルヴィンの後を追って行ってしまった。
『なんだ?何が言いたかったんだ?』
最後まで聞けずモヤッとしたが、今はそんな事を気にしている暇は無い。もうすぐそこまでロッド・レイスが迫ってきている。話の続きは後で聞けばいい。
ハンジに手順を教わりながらカイはロープを手に持つ。
「カイ、優しくだよ優しく」
『分かってるって』
「本当かなぁ……。ああ、ほらそこちゃんと縛らないと解けてしまうよ」
『え?どこ?』
「そこそこ!」
『そこってどこだよ……ってああ、片腕使えないのか』
「使えないのか。じゃないよ!なんで私より重症なのに動けてるのさ!」
『気合いでどうにかしてる。流石にこれが終わったら休むけど』
「そうしてくれ。見てて冷や冷やするじゃないか」
『そういうハンジはどうなんだ?怪我の具合は』
「これくらいなら数日で良くなると思うよ」
『あっそ。それならいいけど』
「なに?心配してくれてるのかい?なんだか照れくさいね」
『そんなに心配はしてない。いつもと変わらず元気だし、何かあってもモブリットがそばに居るし。まあ……なんというか』
「なに?」
『えっと……作戦中はここから離れておいたほうがいいと、思う。危ないから』
ボソボソと小さな声で言ったのにハンジはしっかり聞き取れていたらしく、きょとんとした顔をしたのちに嬉しそうにはにかんだ。
「そうさせてもらうよ。君たちならきっとやり遂げると信じているからね」
『期待に添えるかは知らないけど……やれるとこまではやるよ』
ぐっとロープを引っ張ってキツく縛る。するとハンジが慌てた様子で止めてきた。
「ちょっと!だからさっきから言ってるじゃないか!優しくって」
『口うるさいな……』
「ああもう!ほら、大事な人への贈り物を梱包するイメージでやってくれって言ったろう!?」
『贈り物なんてしたことないですー』
「じゃあ、リヴァイに抱き着く時くらいの優しさで!!」
『は?なんで?』
「それくらいの優しさでやってくれ!」
懇願されるものだから仕方なく、仕方なくそれをイメージしてロープを縛り付ける。
「なんだ、やれば出来るじゃないか」
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