第三十九幕
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「落ち着け。こいつの言葉を真に受けるな」
『ですが、』
「お前が一人で乗り込んで行ったところで袋叩きにあうだけだ。それにもう忘れたのか?俺から離れるな」
『大丈夫です。中央憲兵本部の建物の構造は把握してます。変わっていなければ兵士の待機場所や武器保管室も。なんなら本部ごと吹っ飛ばせばいい。あれは邪魔だから。ことが終わり次第直ぐに戻りますから離脱の許可をくだ──』
さい、と言い切る前に脳天にガツン!と衝撃が走る。
「少し黙ってろ」
頭のてっぺんに叩きつけられたリヴァイの拳。それはカイの思考を止めるのに効果的な一撃だった。
『痛い……』
「痛くしたんだ。これで目は覚めたか?」
『うう……はい』
「なら向こうに行ってろ。こいつにはまだ聞くことがある」
しっしっ、と手を払われるもカイはその場から動けなかった。
「ジャン、こいつを連れてけ」
「えっ。あ……はい……」
「おい、カイ。お前のおかしな発言のせいでガキ共が引いてるじゃねぇか」
『知らないです……俺悪くないですもん』
「もんじゃねぇ。あと
ジャンに後ろから抱え込まれるようにその場を離れる。リヴァイたちから数メートル離れたところで座り込むと、コニーとアルミンが側に寄ってきた。
「カイさん大丈夫ですか?えっと……」
「何やってるんですか!てか、一人で憲兵皆殺しってやばいっすよ!」
『出来ると思ったんだよ。憲兵相手ならいけそうじゃないか?』
「無理ですって!カイさん怪我してるの忘れたんすか!?」
『あ、そういえばそうだった』
「ああ!包帯真っ赤になってますよ!取り替えますか?」
『いやこのままでいいよ。大丈夫。そんな頻繁に取り替えてたらもったいないって』
わたわたする二人を見ていると段々と荒ぶっていた気分が平常になってくる。そうなれば周りがどんな顔をしているのか分かるわけで。
『サシャ、そんな人をバケモンみたいに見るのやめてくれ』
「な、何言ってるんですかあなた!ダメですよ危ないことしたら!」
『わあ、めっちゃ怒ってる……』
「怒るに決まってるじゃないですか!」
そこからはもう何を言っているのか聞き取れなかった。なんか言ってるのは聞こえたけど、故郷の言葉の訛りなどで意味がわからなかった。
「クラウンさん、無茶はしないでください」
『ジャンまで言うか』
「言いますよ……てか、ここにいる全員が思ってることです」
『だってそっちの方が早くないか?憲兵潰せば丸く済む気がするだろ』
「それでもダメです。見てくださいよ。ミカサが怒り狂ってるじゃないっすか」
『え?』
ジャンからミカサの方へと視線を移すと、彼女は無言で男をじっと見下ろしていた。その目は男を威圧し今にも殺しそうだ。
『十代が出していい殺気じゃないだろあれ』
「お願いしますよ。カイさんが荒ぶるとミカサもああなるんすから。リヴァイ兵長の言うことはちゃんと聞いてください」
『はいはい。分かったって』
まるで保護者のような言い様だ。過酷な状況のせいで彼らは大人にならざるを得なくなってしまったのか。それもこれも全て王政や憲兵たちのせいだ。
『あーあ。良い機会だと思ったのに』
「馬鹿なこと言ってないでください。どっかの死に急ぎ野郎みたいじゃないっすか」
『死に急ぎ野郎?』
「エレンのことですよ。104期の中でのあだ名みたいな」
『あだ名が死に急ぎ野郎ってどういうこと??え、あいつそんなに死に急いでるの?』
「まあ……よく無茶をしますね。カイさんみたいに」
『……え、俺のせい?』
自分がエレンの子守りをしていたせいでそうなってしまったのか?いや、そんなはずはない。あの頃は変な真似はしなかったと……。
『あ。あ?まさかエレンに喧嘩売ってきてた子を片っ端から潰してたせいか?そのせいで変なこと覚えやがったな?あいつ』
「なにしてるんすか……」
『いやあ……なんかよく絡まれてたからさ。近所のクソガキに。エレンがボコられる度に俺がやり返しに行ってたから。もしかしてやられたらやり返す、なんならやられる前にやるってのを覚えたんじゃないかと』
「近所のクソガキにやり返してた……?」
カイの言葉にアルミンがハッとして顔を上げた。
『うん?うん。よく喧嘩してたんだよな。理由はなんだったかな。あまり覚えてないんだけど……確か友達を守るためだとかなんだって』
「それ……多分僕のこと、です」
『アルミンのこと?』
「はい……。それと今思い出したんですけど、多分子供の頃にカイさんと会ってます」
『へ?』
「一度だけ助けてもらいました。エレンが倒れて動けなくなってた時に」
エレンが倒れてるのはいつもの事だ。勝算の無い喧嘩に挑んではいつもやられていたから。
そういえば一度だけその友達と会ったことがある。大切そうに本を胸に抱いて悔しげな顔を浮かべていた小さな男の子に。
『あれアルミンだったのか』
あの男の子が今ではこんなに大きくなった。子供の成長とは本当に早いものだ。
『立派になって俺は嬉しいよ』
「えっ、あ、はい」
「クラウンさん、なんかジジくさいっすよ」
『何言ってんだよ。あと数年したら俺ももうおじさんの部類に入るんだよ』
「「「「えっ」」」」
『えっ?』
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