第三十八幕
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『なあ、コニー。それ……意味あるのか?』
「え?何がですか?」
『その頭の枝。帽子にぶっ刺してるけど、枝より帽子の方が目立ってないか?』
「無いよりかはマシだと思ったんですけど……」
『そう?』
草むらに隠れながら辺りを警戒しているコニーの頭をじっと見つめる。帽子を被りやすそうな丸っこい頭だ。
コニーから視線をリヴァイたちの方へと向ける。群れから離れて行動していた憲兵を捕え、兵服をと立体機動を外させた。
どうやら憲兵に成りすまして検問を抜ける気らしい。
『そこらの憲兵ならバカばっかだから上手くいくけど……中央が絡んでるとなると厄介なんだよなぁ』
コニーの真横に腰を下ろす。立てた膝に頬杖をつきながら眺める。
憲兵だけでなく、今は民間人の目も気にしなくてはいけない。誰にも見つからないようにレイス領を目指すのはかなり厳しいだろう。とはいえ、もうこちらには策は無い。だからリヴァイもこの手を取るしか無かったのだ。
『囮になるって言ったのに。あの頑固オヤジめ』
唯一、憲兵たちの目を欺くことができる方法がある。それは誰かが彼らの注意を引きつけること。わざと憲兵本部にでも顔を出しに行って、僅かな時間でも憲兵の気を逸らすことが出来れば、リヴァイたちは安全にレイス領へと迎える。
新兵たちにこの役は荷が重いし、言い出したのは自分だから囮役は自分がやると言ったのだが、リヴァイに即答で断られた。
『どう思うよ。絶対囮を使った方がいいと思うんだけど』
「いや、カイさん今左腕怪我してるじゃないですか。危ないっすよ」
『そんなの分かってる。つかそんな手厚く心配されるほどの怪我じゃない。コニーとジャンが手当てしてくれたから何ともないって』
「でも、今はやめといた方がいいですよ。何があるか分からないし」
『その何かを回避するために言ってんだが?コニー君、君ちょっとアホの子だね?』
「酷くないっすか!?」
ええ!?と驚くコニーを笑い飛ばす。
そんな時、リヴァイが動き出した。
『いやいや……目撃者だから殺るってならないよな?流石に』
刃を肩に掛けながら捕まえた憲兵の背後へと回るリヴァイに冷や汗が垂れる。彼らは見た感じ、ミカサたちとあまり変わらない歳だろう。
『別に歳云々でなんて言わないけど、たまたま通りかかっちゃった奴を手にかけるのはちょっとな。コニー、俺向こう行ってくる。ここの警戒頼んだ』
「あ、はい!」
この場をコニーに任せてカイはリヴァイたちの方へと歩み寄る。
「あんたたち南方訓練兵団出身なんだってね。アニ・レオンハートと同じ」
俯いていた女子がミカサたちに噛み付くように声を張り上げる。
「仲良かったの?いや、友達なんかいなかったでしょ。あいつ暗くて愛想悪いし。人と関わるの怖がってるような子だったし。あいつのことまだ何も知らなかったのに。あの日以来見つかってないのは……巨人にグチャグチャにされて見分けつかなくなったからでしょ!?」
後ろに立っていたリヴァイに向かって彼女は吠える。リヴァイが口を開こうとしたのを手で制止し、カイが代わりに口を開いた。
『それが違うんだなぁ。レオンハートが巨人だった。俺たちは彼女の本性を暴いただけだよ』
「は……?」
『君たちはずっとレオンハートの心配をしてたんだな』
「あの子が……巨人……?」
『残念ながらね。まあ、そういうことだから。この人を責めるのはお門違いだ』
リヴァイを庇うように立つ。後ろから不機嫌そうな呟きが聞こえてきたが無視を決め込む。
「はあ……。まったく嫌になるよな。この世界のことを何も知らねえのは俺らも皆同じだ。この壁の中心にいるヤツら以外はな」
とん、と背中をつつかれてカイは振り返る。
『なに?』
「出てくるなと言っただろうが」
『だってリヴァイさ……ごほん。リヴァイがブレード持ってウロウロしてるから。まさかコイツらを殺すんじゃないかと』
カイの言葉に女子が小さく悲鳴をあげて身を縮こませる。男子の方も強ばった顔でこっちを見てくるもんだから、カイは何も心配はいらないよと伝えるように微笑んだ。
「こいつらは俺らの出発と同時に解放する。一々見つかったからと言って殺してる暇なんてねえよ」
『ん、了解。それが聞けて安心した』
彼らは無事に兵団の方へと戻れる。それならばこれ以上口出しをする必要は無い。
『じゃあ俺は向こうに戻──』
「待ってください!!」
コニーの所へと戻ろうとした瞬間、今まで黙っていた男子が叫んだ。
『うわ……なんだ?』
「カイ、下がれ」
リヴァイがずいっと前に出てきて、カイと彼の間に割り込むように身を滑らせる。
『ええと……彼は?』
「マルロ・フロイデンベルクだ」
『マルロくんな。んで、どうした急に』
「リヴァイ兵士長、俺に協力させてください!俺にはあなたたちが間違っているとは思えません。この世界の不正を正すことができるのなら俺はなんだってやります!」
「なんだ、お前は」
マルロの必死な訴えにリヴァイは冷たい目を向ける。
「お願いします、リヴァイ兵士長!」
「ダメだ。お前に体制を敵に回す覚悟があるかなんて俺には測れない」
『(まあそうだろうなぁ)』
断られたマルロは落ち込んで俯く。
『マルロくん』
「は、はい……」
『君はとても真面目なんだね』
「え?」
『憲兵では息苦しかっただろ。仕事をしない兵士に悪事に手を染める兵士。憲兵団に行ってから君たちは何度もその光景を見たはずだ』
「そ、そうです!だから俺はそれらを正すために……!」
『君は全てをひっくり返すだけの能力が自分に備わっていると思うのか?』
憲兵団を、中央政府をぶち壊すだけの力があるのか。否、彼にはそれ程の能力を持ち合わせてはいないだろう。
『正義ってさ、人の数だけあるんだよ。君の思う正義とリヴァイの思う正義。他の子たちも違うし、彼女だってある。もちろんアニ・レオンハートも』
「正義……ですか」
『うん。君の思う正義はとても立派だよ。悪政を正してこの壁内をより良いものにしようとするのは良い心掛けだ。でも、それ君にできる?君に賛同してくれる人間もいるかもしれない。その反面、ふざけるなと言って武器を突きつけてくるやつもいる』
この世界はまだ狭い。囲いの中で生きている人間たちは皆今の状況を維持しようとするだろう。誰もが環境の変化に対応出来るわけじゃない。
『誰かにとっての正義は誰かにとっては悪でしかない。それを覚えておいた方がいい。この世界に絶対は有り得ないから』
「カイ、いつまでも喋ってんじゃねえ」
『はーい』
ギロッとリヴァイに睨まれ、カイは返事をしながらゆらゆらと手を振る。
『さて、怒られちゃったから俺は行くわ。マルロくん、ええっと……君の名前は分からないな。二人とも、達者で』
ちゃんと兵団に帰るんだよ?と残し、カイはリヴァイたちの方へと向かった。
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