第二十五幕
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「カイ、起きて」
『ん……あ、ついたか』
「うん」
ミカサから離れ、固まった身体を伸ばす。フードを頭から外そうと手をかけ、ハッと辺りを見渡す。
「皆はもう行った。私たちだけが残ってる」
『え?それならなんで早く起こしてくれなかったんだよ』
フードを取り払って見えた視界には確かにリヴァイたちは居なくなっていた。
「あのクソチ……リヴァイ兵長がギリギリまで寝かしておけって」
『はあ?それじゃ準備が遅れるだろ』
「立体機動の準備はハンジ分隊長がやってくれるみたい」
だからっていつまでも寝かせているわけにはいかないだろう。他の者たちはせっせと準備しているというのに。
『何考えてんだあいつは……』
自分も早く手伝いに行こうと立ち上がった時、膝から何かが滑り落ちた。
足元にパサリと落ちたのは黒い上着。それはリヴァイが羽織っていた服だ。
『ほんとに……何考えて』
「カイ、リヴァイ兵長と……エレンと何かあったの?」
『え?な、何かって……なに?』
「エレンがずっと落ち込んでいる。理由を聞いても話してくれない。アニのことで悩んでいるのかと思ったけど、そんな感じでもなさそう。カイの名前を出すと怯えたように驚くから。喧嘩したのかと」
『喧嘩……ではないと思う。ちょっと言い争い?はしたけど』
「そう。仲直りは出来そうなの?」
『じ、時間経過……で?』
エレンの気持ちは分かってる。でもそれを叶えてはあげられない。
エレンが吹っ切れてくれなければ仲直りも何もない。その為にはカイがエレンの視界になるべく入らないようにするのが一番なのだけど。
「時間が解決してくれるの?」
『多分……』
「わかった。何か手伝えることがあったら言って欲しい。私は二人のためなら何でもする」
『何でもはいいかな。そうだな……出来ればエレンと距離を置いた方がいいと思うんだよ。ムカつく奴が目の前ウロウロしてたら嫌だろ?』
「エレンはカイのことをムカつく奴なんて思ってない!」
キッパリと言いきられ、その勢いに思わず後ずさる。
『例え!例えだから!あー、親に怒られた後って部屋に閉じこもりたくなるだろ?暫く顔みたくないって。それと同じ!あいつも今そんな感じだから、なるべく顔合わせないようにしてやりたいんだよ。落ち着くまでは』
「む……」
『だから協力してくれるか?エレンが元気になるまで』
「……わかった」
渋々頷くミカサにカイは胸を撫で下ろす。これで何とかなりそうだ。
『俺達も準備しにいこうか』
「うん」
忙しなく動いている兵士たちの横でアデラインがずっとこちらを見ているのに気づいた。その背にはもう装備品がつけられている。なんだか見覚えのある鞄と共に。
『待てよ……なんでまたガス缶が持たされてんだ』
あれを準備したのはハンジではないことは明白だ。本来、換えのガスは個人で持ち歩かないから。
『分かるよ?そりゃまだ振られた直後だからそんな簡単には心変わりしないって。でもさ……もうやめようって。こんなの俺が辛いから』
こんな分かりやすい心配はやめて欲しい。ガス缶もこの上着も。
やめて欲しいと思うのに。自分のことはすっぱり諦めて欲しいと願うのに。リヴァイに気にされていると思うとこんなにも嬉しく感じてしまう。
『やだなぁ……』
上着にリヴァイの温もりが残っているような気がして抱きしめた。ふわりと鼻についた残り香。
しみじみと自分はリヴァイの事が好きなんだと自覚させられた。
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