第二十八幕
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『本当に良いんですか?エルヴィンたち置いてきて』
「あっちはあっちでどうにかすんだろ。俺たちは先に中に戻る」
カイたちは一足先に壁の方へと戻ってきていた。巨大樹の森周辺に居た巨人たちはエルヴィンたちの方に向かっていったのか、カイたちが森を出た時には一匹も居なかった。
『エレンは……大丈夫ですよね?』
「さあな。だが、やつが奪還すると言ったんだ。必ず連れ戻すだろうよ」
エルヴィンがそう言ったのであれば信じるしかない。ミカサやアルミンたちもエレンを助けに行っているというのだ。
『それなら信じて待つしかないですね』
「カイ、そんなことより早くお前は身体を洗え」
『んえ?なんです?急に』
「いつまでも知らねぇやつの臭いをつけてんじゃねぇ」
『臭い?』
くん、と服の臭いを嗅いでみると、確かになんか変な臭いがする。
『巨人の口の中に入れられたから?』
「チッ……汚ねぇ」
『巨人にも口臭ってあるんですかね』
なんだかこれ以上嗅ぐのは嫌だ。これが巨人の口臭なのか、それともライナーの臭いなのかは分からないが、良い臭いではないのは確かだ。
『すみません、全然気づかなかった』
「そう思うなら早く洗え」
『はい……』
すぐに離れたとはいえリヴァイの服にもこの臭いは着いてしまっているだろう。潔癖であるリヴァイに嫌な臭いを嗅がせてしまった。とはいえ、先に抱きしめてきたのはリヴァイの方だが。
申し訳なく思いつつも、ゾクゾクとした謎の愉悦感が生まれた。
『リヴァイさん』
「どうした──おい、お前何して……」
『俺、リヴァイさんのこと汚しちゃった?』
「は……?」
潔癖症であるリヴァイに臭いをつけた。その事が何故か嬉しい。自分でもよく分からない背徳感。なんだかリヴァイの大切なものを奪ってしまったかのような気分。
『リヴァイさん、』
「おい……やめろ、来るな」
何かを感じ取ったのかリヴァイは後ずさる。その顔は恐ろしいものを見るかのように。
『逃げなくてもいいじゃないですか』
咄嗟にリヴァイの手を掴み、逃げられないようにと引っ張る。何とかして振りほどこうとしているようだが、カイは決して手を離さなかった。
『んー……どうせリヴァイさんも水浴びするならさ、もう少し汚れても良くないですか?』
「良くねぇ!これ以上近づくな!」
その言葉にぴたりとカイは動きを止める。掴んでいた手も離し、逆にカイの方からリヴァイとの距離を作った。
『あっそ、』
「お前さっきからなんなんだ!」
『なんかリヴァイさんが汚れるのが嬉しくて』
「蹴り飛ばすぞてめぇ」
『綺麗なものが汚れるのってなんかゾクゾクしない?こう……自分の色に染まるみたいな……』
真っ白な布に一滴の黒を落とすように。その部分からじわりじわりと侵食していく様は見ていて心地が良い。
「ふざけたこと言ってんじゃねぇ。てめぇの臭いならまだしも、それは他人のもんだろうが。それに──」
空けた距離が詰められ、リヴァイはカイのシャツの襟をガシッと掴んで自分の方へと引き寄せる。
「染められんのは俺じゃなくてお前だ、カイ」
『わ……』
「逃がさねぇから覚悟しておけ」
そう言ってリヴァイはリフトへと乗り込んだ。我に返った瞬間、一気に恥ずかしさが全身を駆け巡る。なんであんな事をしたんだと頭を抱え、そしてリヴァイの言葉に口の端が無意識に上がった。
『……もう既に染められつつあるのは俺の気のせい……?』
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