第二十八幕
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「てめぇ、それが助けに来たやつに対しての言葉か?」
『助けてくれなんて誰も──』
いや、言ったわ。
カイの前に降り立ったリヴァイは至極不機嫌そうに腕を組んで仁王立ち。座っているカイをジト目で見下ろしながらブツブツと文句を垂れ流している。
まさかあの時の言葉が聞こえていたわけではあるまい。だってあの場には居なかったのだから。エレンが聞いていたならまだしも、リヴァイが知るはずがない。
鎧の巨人の口の中で確かにカイは求めてしまった。あの場にいなかったはずのリヴァイに救いを。来るはずがない人に向けて願ってしまったのだ。
それが今叶うなんて誰が想像つくか。
『いや、えっと……えー……』
「エレンはどうした」
『彼ら……ライナーとベルトルトって子に連れていかれた。あのユミルって子も』
「お前はなんでここにいる」
『置いていかれましたね。ええ。餓死するか下の巨人に食われるか選んでくださいって』
「……殺す」
『は?』
今まで見た中でも一番眉間にシワが寄っている。もうそのままシワが定着してしまうんじゃないかという程に。
『てか、なんでリヴァイが出てきてるんだよ。そりゃエレンが連れていかれてるから助けなきゃいけないのはわかるけど。怪我してるお前が出てこなくてもいいだろ』
相手が巨人だからというのもあるだろうが、それでもリヴァイを連れてきて欲しくはなかった。エルヴィンにあれだけ頼んだというのに。
リヴァイの代わりになるといった自分が連れ去られてしまっているから文句を言えた義理ではないけれど。
「言ったはずだ。助けてやると」
『……え?』
「どこにいてもお前を助ける」
『なに……言って』
カイの目線に合うようにリヴァイは腰を下ろす。
「忘れたなんて言わせねぇ」
『覚えてる、けど……でも、限度があるだろ!壁内ならまだしも、巨人が彷徨いてるところまで来るなんて……!無理してまで助けに来なくなっていい!そんなの……頼んでない』
「お前に頼まれようが頼まれなかろうが関係ない。俺の意思でお前を探し出す」
真っ直ぐ向けられる瞳に目が逸らせなくなる。そして言い返す言葉も見つからなかった。
『ほんとに……ばかじゃないですか?』
「好きに言え。俺はお前に対してどうも頭が緩くなっちまう」
『緩すぎ……誰かにネジ締めてもらってください』
怪我をしているのにここまで助けに来てくれた事が嬉しくて。喜んでいいはずないのに、自然と顔が笑ってしまう。
「惚れた弱みってもんだろ」
『どうにかしてください。お願いですから』
「無理言うな」
そんな緩みきった頭ではダメだろう。そもそもいつからそんなに緩んでしまったのか。自分のせいでそうなってしまったというのは分かるけど、どの時期からなのかはわからない。だってこんな風に優しくしてくれるのはいつもだから。
ぐいっと腕を引っ張られてリヴァイの腕の中へと飛び込む。どうしたのかと不思議に思ってリヴァイの顔を見ようとしたが、カイの肩に額を乗せていてこちらからは見えなかった。
『リヴァイさん?』
「無事で……」
『……うん。ちゃんと生きてる』
背に回ったリヴァイの腕は小刻みに震えている。耳元で小さく"良かった"と聞こえ、その言葉に返すように頷いた。
『リヴァイさん、手の紐外してもらっても?』
「……ああ」
トリガーに剣を装着し、リヴァイはカイの手首を縛っている紐を切る。自由になった両腕をそのままリヴァイの背中へと回した。
『ああ、やっぱ……』
「なんだ」
『やっぱ、怖かったんだなぁって』
巨人の口に入れられ、エレンの人質として連れ去られ、その挙句に餓死か巨人の餌を選べと言われて置いていかれた。リヴァイが来なかったらどうなっていたことか。自分のことはどうでもいいと思おうとしていたが、それでも死ぬのが怖いと思ってしまう。
『怖……かった』
縋るようにリヴァイに抱きつけば、カイを抱き締めている腕に力がこもる。
「もう大丈夫だ」
『っ……ふ……』
じんわりと目頭が熱くなる。ボロボロと泣き始めると、リヴァイは何度も優しく声をかけてくれた。
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