第四十八幕
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~Eren~
「エレン、分かってるとは思うが……」
「はい。ちゃんと分かってます」
「ならいい」
それだけ言い残してリヴァイはカイの後を追うように飛んで行った。
「(リヴァイ兵長が止めてくれなかったら……)」
カイに叩かれていただろう。その理由はちゃんと分かっている。
分かっているけど腑に落ちない。
巨人から人類を守るためにはこの方法しかないのに。自分一人が我慢すれば、壁内の何千、何万という人間が安全に暮らせる。そしてウォール・マリア奪還が近づいてくるというのに。
それなのにカイは兵器の量産よりエレンの体調を優先した。
気にかけてくれて嬉しいとは思う。でも、今はそんなことを気にしている暇は無い。一刻も早くシガンシナ区にいかなくては。故郷を取り戻し、自宅の地下室へと行く。そこにこの世界の真実があるのだから。
だから喜んではいけない。
「(いつもカイは俺のことを優先してくれる。巨人の力じゃなくて、俺自身を……)」
いつだったか、巨人化の実験で失敗した時があった。その時もカイは出来ても出来なくてもどちらでもいいと言っていたのを思い出した。
いつだってカイは巨人化の能力なんて二の次だった。一番にエレンのことを考え、そしてエレンに不調が出る場合は巨人化させるのを止める。
人類の未来が掛かっているのに。エレン一人の犠牲でどれだけの人間が生き延びるのかを知っているはずなのにだ。
「(きっと本人は天秤に掛けているつもりはない。でも、俺の心配をするより壁内の人類の心配が先だろ。ウォール・マリア奪還は俺に懸かってる。俺が……)」
──そりゃエレンがウォール・マリアを奪還してくれたら助かるけど。でもそれはエレンが全責負うことになる。トロスト区の時と同じように期待され、恐れられる存在になるんだよ。俺は……お前にそんなもん背負って欲しくない。
「あ……」
「どうした?エレン。大丈夫かい?」
「しんどいようでしたら先に本部に戻りますか?もし動けないようでしたらクラウンさんを呼んできますけど……」
「あ、いえ、大丈夫です。自分で戻れます」
口から漏れた音にハンジとモブリットが反応し、二人は心配そうに声をかけてくれる。そんな二人に大丈夫だと返し、エレンは立体機動のトリガーを取り出す。
「(カイは最初から……)」
謝らないと。今すぐに。
カイはずっとエレンの身を案じていた。周囲がエレンに人類の希望として期待を寄せていた中でも、カイは自分のことを尊重してくれていたじゃないか。
アニと壁内で戦うことになったときだってそうだ。ミカサにアニと戦うように言われても判断できなかった。アルミンに説得されても、瓦礫に押し潰されて大怪我を負ったとしてもエレンは踏ん切りがつけず、いつまでも悩み、多数の犠牲を生んだ。
それでもカイはエレンの気持ちを優先してくれた。考えがまとまるまでは時間を稼ぐと言って。
「謝らないと……」
「え?なに?どうしたの?」
「すみません!俺、カイの所に行ってきます!」
「うん?カイのとこに?」
「はい!」
ハンジは逡巡したのち、にこりと笑って頷いた。
「行っておいで。ちゃんと仲直りしてくるんだよ?」
隣にいるモブリットも優しげな目。二人に頭を下げてからエレンは町の方へと飛び立つ。
「ごめん!俺バカだから……!カイはずっと俺の事を考えてくれてたのに!」
カイに優しくしてもらうことが当たり前だと思ってしまっていた。大切にしてもらって当然だと。
その裏でカイがどれだけ大変な思いをしていたか、色んな考えを巡らせていたかなんて微塵にも思わなかった。
ずっとカイに甘えていた。
「ごめん……!ごめん!!」
怒られてもいい。もう知らないと突き放されても。
それでも構わないから。
早く早くと焦るあまり、アンカーを突き刺すのが雑になって上手く飛べない。ガスの噴出を増やして何とか前に進むが、周りから見たら不格好な飛び方だろう。
でも今はそんなことを気にしている余裕なんてない。
今は、早くカイに会わないと。
大切にしてくれてありがとう。心配かけてごめんなさい、と伝えるために。
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