第二十七幕
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ゆっくりと瞼を開ける。視界に映ったのは部屋の天井ではなく木だった。
「(あれ……俺なにして……)」
「おう、エレン。起きたか」
上体を起こすとライナーとベルトルトが立っているのが見えた。そしてライナーの足元にいる人物も。
「カイッ!」
意識がないのか何度も呼びかけてもピクリともしない。そんなカイにライナーは手を伸ばした。
「触んじゃねぇ!!」
「騒ぐなよ。この人の生死は俺たちが握ってるんだぞ?」
起きる気配の無いカイの背中にライナーは手を添える。そしてあろうことか下に落とそうとしていた。
「俺が手をかけなくとも、このまま落とせば巨人の餌食だ。この人を助けたいと思うなら大人しくしていることだな」
木の周りに群がっている巨人たちを見て奥歯を噛み締める。今の自分ではカイを助け出すことは出来ない。
「クソ……!」
カイは身を呈して守ろうとしてくれたのに。自分はただ見ていることしかできない。巨人化の能力を持っているのに捕らわれたカイを救い出すことも出来なかった。
ライナーの口の中でカイは泣いていたというのに。
「(クソ!!なんで……なんで俺はいつも守られてばっかなんだ!)」
助けられてばかりは嫌だと思っていても、結果的にカイに助けられている。
まだ、あの頃と変わらない。子守りをされていた時と。
「カイに手を出すな……」
「大人しくする気になったか」
「その代わりカイには何もすんじゃねぇ!」
「ああ。お前が言うことを聞くってんなら何もしねぇよ。元々この人を人質にするつもりなんて無かったしな」
「は……?じゃ、じゃあなんで!」
「お前がそうしたんだろ?」
ライナーの言葉が理解できない。カイが人質になってしまったのは自分のせいなのか?
「なに……言って……」
「俺は言ったはずだ。俺たちについてきてくれれば何もしないって。だが、お前は断った。この人を盾にして逃げたじゃねぇか」
「盾になんかしてねぇ!!」
「いいや。逃げたな。俺たちが巨人化してる目の前でカイさんはお前を守ろうとしてた。いくら中に人間が入ってるとはいえ、今まで人類の敵として恐れられてた巨人が自分の真後ろにいるんだぞ?この人だってあそこから逃げ出したかったはずだ。それなのにお前を守るために残った。違うか?」
「あ……」
そうだ。怒りと悔しさで忘れていた。相手は人間と言えども巨人なのだ。
「お前、随分と薄情なんだな」
ライナーの言葉が頭に入ってこない。じとりと嫌な汗が額に滲む。
「カイ……」
どこまで自分は愚かなんだろう。どうしてカイを連れて逃げなかったんだろう。
どうして自分だけ。
「あ、あ……ああ……!」
『それはちょっと違うなぁ、ライナーくん』
「はっ!」
カイの声が聞こえ、バッと勢いよく顔を上げる。
「起きたんですか」
『寝心地が悪くてな。まだそんな日は経ってないはずなのに……なんだかあの膝が懐かしく感じるよ』
「カイ……!」
エレンの呼び掛けに今度はちゃんと反応してくれる。横になったままの状態でカイは顔だけこちらへと向けた。
『うわ、お前腕どうした!?』
「これは……その、」
『つか、隣の子もやばいな。それちゃんと治るのか?』
「おい、エレン。あの人大丈夫なのか?」
「なんだよ大丈夫なのかって」
「この状況であれはお気楽すぎんだろ。自分の心配より私らの心配なんて」
「しょうがねぇよ……カイはそういう奴だから」
隣にいるユミルは呆れた顔。そうなるのも仕方ない。ライナーたちを問い詰めるよりも先にエレンたちの心配をしたのだから。起きたばかりで状況を把握していないとはいえ、あまりにもお気楽すぎる。
『あらま。もう夕暮れか。良い夕陽だな。明日も……』
「カイさん、貴方は人質としてここに連れてこられた自覚はあるんですか」
場違いなカイの言葉にライナーがすかさず声をかける。側で聞いていたベルトルトもぽかんとだらしない顔。
『うん?人質?ああ、忘れてた。いやあ、こんな絶好な機会なんてないなぁって』
「絶好の……機会?」
『聞きたいことがあるんだよ色々と。まずはそうだなぁ……君たちは"どこから来た"のか教えてくれるか?』
カイの言葉にライナーとベルトルトは身構える。
『それとこの拘束を解いてくれると嬉しいなぁとか』
むくりと起き上がったカイの手は後ろ手にまとめられていた。ライナーに聞いてみるも、無言で首を振られてカイはわざとらしく肩を落としていた。
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