アデライン(2)
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調査兵団に入ってから一ヶ月。壁外調査まで残り一ヶ月となり、それにつれて立体機動の訓練も頻繁に行われるようになった。その緊張感からか班長であるクラウスの指導も激しさが増し、入団当初の優しい注意は怒号へと移り変わった。
「クラウン!!もっと深く切り込め!じゃねぇと、倒せねぇぞ!!!」
『班長!!項が硬すぎるんですけど!!絶対なんか変なの入れてるでしょう!!?』
模擬巨人の項を削ごうと刃を滑らせたが、肉部分に刃がぶつかった瞬間弾かれた。まさか、と思って項を見てみると、切れた布の隙間からキラリと光る鉄板。
『クラウス班長!!あれは無理ですって!!』
「無理じゃねぇ!!殺れ!!やらなきゃお前が殺られるぞ!!」
項に鉄板が入ってる巨人なんて何処にいるんだ。そんな硬いものをこの刃で切れるとは思えない。どれだけ剣の使い方に長けていても素材的に無理だ。
『班長……班長はそれ切れるんですか』
「あ?疑ってんのかクラウン!」
『いや疑うでしょう流石に!!』
百聞は一見にしかず。やってみて欲しいと頼むと、班長はキレ散らかしながら模擬巨人へと飛んでいく。
そして、案の定弾かれていた。
『班長!?!?』
「少し硬すぎたか」
『硬すぎたか、じゃないですよ!!出来ないじゃないですか!!!』
「うるせぇ!!いい練習になるだろうが!」
あまりにも酷すぎる。自分が出来ない事を部下にやらせるなんて。理不尽にも程があるだろう。
『いい練習って……ただ、刃を無駄に使っただけじゃないですか……』
「なんだと!?」
キッ!と班長に睨まれ、カイはサッと顔を逸らす。
「ぐぬぬ……良い出来だと思ったんだがな……」
『あんなの誰が殺れるって言うんですか。シグルドだって壊せてないのに』
視界の隅でシグルドも同じ模擬巨人を相手しているのだが、当然の事ながら項が削げる訳もなく苦笑いを浮かべていた。ベテランでも出来ず、首席のシグルドも太刀打ちできない相手に自分が敵うはずもない。
『班長、あれは引っ込めてください。無理なものは無理です』
「チッ……俺の力作を捨てろって言うのか」
『捨てろとは言いませんけど、練習にはなりませんよ』
いいですね?と再度問いかけると班長は渋々といった顔で頷いた。これで拒否されたらどうしようかと思ったが素直に諦めてくれて良かった。
板を立てている兵士のすぐ横にある木にアンカーを差して飛び移り、彼に模擬巨人を引っ込めるように声をかける。
『すみません!これ使えないので引っ込めてもらえますか?』
「え?使えない?」
『はい。うちの班長が手を加えたやつで、項の部分に鉄板仕込んでるから切れないんですよ』
「鉄板……」
兵士は口をあんぐりと開けて驚き、いそいそと模擬巨人を引っ込めようとロープを引っ張る。
その間、他の兵士がこの模擬巨人とぶつからないようにしなくては。
『班長!周囲の兵士にここを通らないように声を──』
かけて欲しい、という前に誰かがカイの前を飛んでいく。
ハッとして慌てて引き留めようとしたが、その人物は吸い込まれるように模擬巨人に向けて刃を突き立てようとしていた。
『待った!!それは鉄板が入ってるから切り込めないから!』
今まさに切り込もうとしている兵士の所へと飛ぶが間に合う気がしない。
ああ、あれは確実に剣をダメにする。訓練で剣を壊したとなれば上官から叱責を受けてしまうだろう。
さーっと顔が青ざめていく中、その兵士は模擬巨人の首を鉄板ごとぶった切っていた。
『は……あ、え??』
ゴトン!と地面に落ちる板。そして真っ二つに切られた鉄板が飛び散る。
近くの木の上に飛び乗って、ぶち壊された模擬巨人を呆然と見下ろす。一体何が起きたんだ。
『鉄板を真っ二つって……へ?』
凄いと思うよりも笑いが込み上げてしまう。あれだけ切りかかっても切れなかった鉄板をいとも簡単に壊してしまった。まるでパンを切るかのような滑らかさで。
『誰がこれを……』
先程の兵士はどこだ?と辺りを探しても姿が見えない。もうどこかへ行ってしまったのかと探すのを諦めると、頭上から立体機動の音が聞こえた。
「おい、あれは一体なんだ。訓練用の物にしては硬すぎる」
『リヴァイ、さん?』
カイの隣に降り立ったリヴァイは眉間にシワを刻みながら壊れた模擬巨人を見下げる。
『どうしてここに?』
「壁外調査が近いから訓練をしろとな。適当に飛んでたらこれを見つけて切った。誰だ、あれに細工したやつは」
『リヴァイさんがアレを切った……んですか?』
「そうだが?」
『は……ははっ!あれを!?鉄板入ってるのに!?』
「何がおかしい」
不満気な顔をしているリヴァイを前にしてカイは腹を抱えて笑った。
『リヴァイさんに切れないものは無いんですか?』
「知るか」
そりゃそうだ。鉄板も切れてしまうような人に切れないものは無いだろう。色々と試してもらいたい気はするがリヴァイは良しとしないだろう。
『剣は大丈夫そうですか?』
「あれのせいで刃こぼれしてる。もう使えねぇな」
『ぶふっ……!』
「笑いすぎだ。バカにしてんのか」
『逆です。凄すぎて笑うしかないんですよ』
班長に教えたらきっと喜ぶはずだ。お手製の模擬巨人が壊されたと知ったら。
「あの板を用意したやつに言っとけ。切れねぇもんを作るなと」
『無理ですよ。リヴァイさんが切っちゃったから。次はもっと硬くしてきますよ』
「それじゃ練習にならねぇだろうが」
呆れてため息を零すリヴァイにカイはまた吹き出すように笑う。
『俺もいつか切れるようになるかな』
リヴァイのように鉄板が切れなくてもいい。普通に巨人の項が削げれば。慌てることなく倒せるほどの技術を身につけることが出来たら。
「切り込み方は悪くねぇ」
『え?』
「剣の角度に気をつけろ。それとガスの使いすぎだ。あれじゃすぐにガス欠を起こす」
『えっと……リヴァイさん?』
「壁外調査まであと一ヶ月ある。その間に直せ」
そう言ってリヴァイは飛び去って行ってしまった。
まさかアドバイスをもらえると思わなくて、リヴァイにお礼を言いそびれてしまった。注意されたことを忘れないように反芻する。
『リヴァイさんに見られてたのか……?』
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