アデライン(2)
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~Levi~
「喧嘩でもしたのか?」
「違う。あのシグルドってやつが過保護なだけだ」
新兵二人を見送った後、エルヴィンに事情説明を求められリヴァイはここで起きたことを簡潔に説明した。また問題を起こしたのかと呆れの眼差しを向けられて癪に触りつつも、淡々と話しているうちにエルヴィンの表情は無から驚愕へと変わっていった。
「そこまで言われてよく手を出さなかったな」
「あからさまな挑発に俺が乗るとでも思ってんのか」
相手はリヴァイが手を出すのを待っていた。もしあの場でシグルドを蹴り飛ばしていたら、やつはこれを餌にリヴァイの立場を悪くするつもりのはず。
漸くそれなりの身動きが取れるようになった今、そんなしょうもないことで均衡を崩すわけにはいかない。それこそエルヴィンの信用を地に落とすことになる。
「シグルド・ファーレンハイトか。確か訓練兵を首席で卒業したと言っていたな。立体機動の訓練も申し分なく、今すぐ壁外調査に出しても問題ないとクラウス班長のお墨付きだ」
「そうか。訓練で良い成績をいくら残そうが、壁外で使い物にならなきゃ意味は無い」
模擬巨人をどれだけ倒そうと誇れるものじゃない。あんなのはただのハリボテなのだから。本物の巨人を前にしたら思い知ることになる。必死にこなしてきた訓練が子供のお遊び程度でしかなかったことに。
ふと、馬房に居た時に聞こえてきた話を思い出す。訓練が上手くいかないのだと馬に散々ボヤいていた。つい先日入ってきた新兵であれば仕方ないだろうと思いながら、優秀な友人が近くにいるのだからそいつに手ほどきを受ければ良いものをと呆れた。あれだけ心配されて大事に囲われているのだから相手は快く教えてくれるだろうに。
「そんなことよりリヴァイ、なぜこんな時間にここに居た?」
「こいつの面倒を見てただけだ」
振り返った先にいたのは一匹の馬。あの騒がしい二人が来るまではリヴァイが世話をしていたのだ。
「あの馬は殺処分予定のはずじゃなかったか?」
「どっかのバカが手懐けると言って引き伸ばしたらしい」
「まさかカイ・クラウンが?」
「さあな」
まだ二日程しか見ていないが、カイは夜になると馬に話しかけに来る。昨日、慌てて厩舎に来たのはこの馬に話しかけに来ていたからだと知った時はとんだアホが居ると思った。
リヴァイが調査兵団に来てから半年ほど。その間にこの馬がどういう扱いを受けてきたかは嫌という程知っている。言うことを聞かないからと鞭を打たれ、痛みに反抗すれば食事を抜かれる。
躾に痛みは切っても切り離せないことだが、この馬は痛みに慣れすぎてしまっていた。少し鞭を打ったくらいでは意味は無い。むしろ自分を傷つけた人間としてしっかりと覚え、やり返すことさえあるのだ。
そんな暴れ馬を手懐けるとカイは言い出した。
「手懐けられると思うか?」
「それはあいつ次第だろう」
まだ二日しか経っていないから判断はできない。ただ、この馬はカイのことをちゃんと見ているようだった。
今までの人間と違うと感じたのか、それとも気まぐれに放っておいてるだけなのかは知らないが。
「アデラインと言ったか」
エルヴィンをじとりと睨みつけている馬に声をかける。この半年の間、暇な時間が出来た時に気にかけていた。そのおかげか、リヴァイが近づいても足を鳴らして威嚇することなく顔を向けてくる。
「お前、あいつを背中に乗せる気はあるか」
まだ分からない。途中で手懐けるのが嫌になったと放り出す恐れもある。他の馬が良いと言ってアデラインを捨てるかもしれない。
「期待はするな。だが、お前もあいつを認めたのであれば優しくしてやれ」
カイが近づくことを許したのだからそれなりの対応をしろとアデラインに呟くと、アデラインはそっぽ向いて鼻を鳴らした。
「良かったじゃねぇか。お前はもう一匹じゃねぇよ」
カイが諦めなければこの馬は殺処分を免れる。そして他の馬から引き離され、鍵の掛けられた馬房で孤独に過ごしていた日々も終わりを告げるだろう。
自分と同じように一人ぼっちにならずに済むのだ。
「あいつが次の壁外調査で死ななきゃいいがな」
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