アデライン(2)
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リヴァイに蹴られた翌日、訓練を終えたカイはシグルドを引き連れてアデラインの所へと向かった。
『今日も遅くなってごめんな。明日はもう少し早く来れるように頑張るからさ』
退屈そうにしているアデラインに今日あったことを話す。話しているというよりも独り言に近い状態だ。でも、時折アデラインがふん、と鼻を鳴らすので、それを返事だと勝手に解釈して受け取っていた。
『俺の班の班長凄いんだよ。模擬巨人の板をいつもボロボロにするんだぜ?その度に団長に怒られて、板の修復してるんだけどさ、班長が直した巨人板が凄い屈強になってるんだよな。項の部分なんか硬くて簡単に削げなくなってるし、なんなら弱点部位を小さくしてるから正確にその場所を狙わないと倒せないんだ』
今日はその板で訓練をしてきた。巨人を中々倒せなくて、班長にこっぴどく叱られてしまった。そんなんで壁外調査に行こうものならすぐに巨人に食い殺されるだろうと。倒せるまで訓練は終了出来ないと何度も飛ばされた。
『ガス補充を五回もさせられると思わなかったよ。座学は苦手だけど、立体機動の扱いは大丈夫だと思ったんだけどなぁ』
座学はてんでダメだった。覚えることが多すぎるというのもあるし、そもそも自分は聞いて覚えるというよりも身体で覚える質だ。勉強面では最下点近くをたたき出してしまったが、立体機動のテストはほぼ満点だった。常に立体機動の順位は二位止まり。一位は言わずもがなシグルドだ。
『明日は上手く切れればいいけれど』
二ヶ月後に壁外調査を控えている。それまでに班長が作った巨人板を倒さなくては。じゃないと壁外調査には連れていかないと言われてしまった。
『さて、今日のところは帰るよ。シグルドにもついてきてもらってるし……ああ、そうだ。あいつはシグルド・ファーレンハイト。訓練兵の時からの友人なんだ』
アデラインはちらりとシグルドを見る。少し離れたところに立っていたシグルドはアデラインに向けて柔らかな笑みを浮かべて手を振る。
そんなシグルドにアデラインはふんっ!と強めに鼻を鳴らす。
『どうした?シグルドと話してみるか?』
もしかしてシグルドに興味が湧いたのかと目を輝かせる。こちらに呼ぼうとシグルドに手招きをすると、アデラインは突然後ろ足を地面に叩きつけた。
『アデライン……?』
「やめておけ。そいつはお前にしか近づくのを許してない」
『え……あ、え!?』
聞き覚えのある声がしたと思ったら、アデラインのところから三つ離れた馬房にいる馬がこちらを見ていた。
『え……馬が……喋った……?』
「バカかお前」
嘘だろ、と驚いていたカイの前にヌルッと現れる人影。あ、なんだ人が居たのかとホッと安心したのもつかの間、その人物の顔を見た瞬間ピシッと身体が硬直した。
『えっと……リヴァイ……さん』
なんでこの人がここに居るんだ。初めて会った日と同じく、リヴァイは眉間に深いシワを刻み、不機嫌そうな表情。もしかして常時その顔をしているのか。喜怒哀楽の大半が失われてしまったような顔をしているリヴァイにカイは恐ろしさを感じた。
「こんな夜更けに馬に独り言とは……随分と根暗な趣味を持ってるな」
『あー……それは、否定出来ないです、ね』
リヴァイから目を逸らしつつ苦笑いを浮かべる。趣味でやっているわけではないのだが、他人から見たらおかしなやつだと思われるだろう。夜な夜な馬に話しかけているなんて普通の人であればしない。
『リヴァイさんこそこんな時間に何してるんですか?』
「てめえには関係ない」
『そーですよねぇ……』
馬房の中から出てきたのだから自身の馬の世話をしていたのだろう。そんなの聞かずともわかること。聞いてしまった己の馬鹿さ加減に二の句が継げない。
カイとリヴァイの間に重苦しい沈黙が流れる。相手はなんとも思っていないのか、自身の愛馬の頭を撫でていた。その手つきは表情とは真逆で、とても優しい手つき。馬に対しては穏やかなんだな、と失礼なことを思いながらリヴァイが馬をあやしているのを眺める。
不意に馬を見ていた目がカイの方へと向けられた。また何かしてしまったのかと怯えて身構えるも、リヴァイはただカイを見ているだけで何も言わない。
その時、雲間から月が顔を出し、闇夜に染まっていた厩舎に光が入る。月明かりに照らされて見えたリヴァイの瞳は息を呑むほど綺麗だった。
『……綺麗だ』
「……は?」
思わず言葉にしてしまった。でも、それ以外の言葉が見つからない。細められた目に鋭利さが帯びるが、それでもリヴァイの瞳から放たれる美しさは変わらない。
『とても綺麗な目をしてるんですね』
「何……言って、」
カイの素直な感想にリヴァイは戸惑いの色を見せる。自分でも何を言っているんだと思う。だが、何故か伝えなくてはという謎の使命感に駆られた。
「ふざけたこと言ってんじゃねぇ」
『あ、はい……すみません』
相手の機嫌を損ねてしまった。これではまた蹴られる。そう覚悟して身を縮こませるけど、いくら待っても痛みは来ない。
「兵舎に戻ってクソして寝ろ。お前らは明日も訓練だろうが」
蹴られなかった。そもそも暴力を受けなかったということに安心しているのもおかしな事だが。
リヴァイの言葉に頷いてその場を離れようと一歩踏み出す。すると、左手の袖が何かに引っかかったのか動かせなかった。
『え……アデライン?』
左手を見てみるとアデラインが袖を噛んでいた。どうしたんだ?と聞いてみてもアデラインは噛んだままで離そうとしない。
そんな状況で、カイとリヴァイの間に影が差し込む。足元に見えた人影に顔を上げると、シグルドの背中が見えた。
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