初めまして(1)
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「で?その蹴ったやつは一体どこの誰だ?」
『リヴァイって人』
「リヴァイ……ね」
兵舎へと戻ってきたカイを一番に出迎えたのはシグルドだった。入口のところでずっと待っていてくれたらしく、眠そうな顔で遅いと怒られてしまった。
『俺が勘違いしたから悪いんだけどな。それにしても凄い蹴りだったよ。何されたのか分からなかった』
「怪我は?」
『してない。綺麗にひっくり返された』
見事な蹴り技だった。あれは普段から人を蹴り慣れているのだろう。人を蹴り慣れているというのも如何なものかと思うけど。
「ふむ……。カイ、明日も馬──アデラインのところに行くのか?」
『うん。明日も行くって言ってきたから』
「そう。じゃあ、明日は俺も一緒に行くわ」
『え?いや、いいよ。明日も訓練だろ?』
「訓練なのはカイも同じだろ。必ずついて行くから」
ついてこなくても大丈夫だと言ってもシグルドは頑なだった。なんで急に、と聞くとシグルドは不機嫌そうに顔を歪める。
「またそのリヴァイってやつとばったり会うかもしれないだろ?その時にまた蹴られるかもしれないから」
『そんな毎度毎度蹴ってくるわけないだろ』
「初対面のやつを蹴り飛ばす様な人間なんだろ?何があるか分からないからついてく」
『ついてくんのは構わないけど……』
なんでそこまでリヴァイの事を目の敵にしてるのやら。蹴られたのはカイであってシグルドではないのに。
まるで自分が蹴られたかのように怒っているシグルドにカイは吹き出してしまった。
「何笑ってんだよ」
『いや、なんでそんな怒ってんだろうって。別にシグルドが蹴られたわけじゃないのに』
「そりゃ怒るだろ。大事な……友人が蹴られたとなれば誰だって怒るっての」
『そりゃどうも。そんなに大切にされていたとは思わなかったよ』
なんだかシグルドの方を見るのが恥ずかしくなり、カイはシグルドに背を向ける。
「これだけ大事に大事にしてきたのに。まさか伝わってなかったとは。悲しい限りだわ」
ギシッとベッドが軋む音が聞こえたかと思えば、するりとカイの腰にシグルドの腕がまわる。
『シ、シグルド?』
「ベルト外すんだろ?手伝ってやるよ」
『自分で外せるからいいって。お前は先に寝てろよ』
パチンッと胸元のベルトが外される。その手がやたらといやらしく感じてしまう。
シグルドはただ純粋に手伝ってくれているだけだ。変に感じてしまうのは自分がそういう風に想っているせい。
「カイだって早く寝たいだろ?ほら、遠慮すんなって」
ぼそぼそと耳元で囁かれ、大袈裟なくらいビクリと肩が揺れてしまう。
『(外してるだけ、ただ外してるだけだ。頼むから変に意識しないでくれ)』
シグルドの手に一々反応してしまう身体に嫌気がさす。頭の中を無にしてやり過ごしたが、そのせいで疲労感が増してしまった。
「ベルト外してただけなのになんでそんな疲れた顔してんだよ」
『……聞くな。色々あってもう疲れてんだよ……』
「そ?なら早く寝ましょうねぇ」
もうどうにでもなれと諦めてシグルドの胸に背を任せると、ふわりと横抱きにされた。
『は!?』
「眠いんだろ?」
『眠いけど!眠いけどこれは違うだろ!』
「何が?別にいいだろ。俺らしか居ないんだし」
『良くねぇよ!自分のベッドに戻れよ!』
カイを抱えたかと思えば、シグルドはそのままカイのベッドへと上がってきた。狭いベッドに寝転がると、シグルドは自分の腕にカイの頭を乗せて目を閉じる。
「騒ぐなって。班長に怒られるだろ?」
『戻れっての!』
「もう面倒臭い。いいじゃん、減るもんじゃないんだから」
うるさいと頭を軽く叩かれる。シグルドがここで寝るというのなら自分がここから出ればいい。そう思って起き上がろうとしたが、シグルドにがっしりと腰を抱かれてしまって動けなかった。
『おい……シグルド……』
「疲れてんの。今日は抱き枕が欲しい気分だから……頼むよ」
『……人を抱き枕代わりにするなよ』
「カイが抱きやすいのが悪い」
『は……?』
そんなの初めて聞いた。まるでこれまで何度も自分のことを抱き枕代わりにしたことがあるような言い草だ。
「カイ、ほら早く」
『……今日だけだからな!?』
「うんうん。今日だけね」
バクバクと心臓が高鳴っている。シグルドに気づかれないようにと背中を向けて横になった。
「そっち向いちゃうのかよ」
後ろから伸びてきた腕に抱きしめられる。シグルドの長い足が自分の足に絡みつく。
『早く寝ろよばか』
「んー、これなら今日は良い夢見れそう」
『俺は悪夢見そうだけどな』
「そしたら起こしてやるよ」
こんなの緊張して眠れるわけがない。
聞こえてくるシグルドの寝息。身動ぎ一つ出来ず、カイは一睡も出来ないまま朝を迎えることとなった。
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