初めまして(1)
name change
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『やっべ、遅くなっちゃったな……』
次の日、朝から立体機動装置の訓練をした。班長の指導の元、巨人との戦闘を意識した班行動を学ぶために。カイとシグルドの班長は他の班長とは熱意が違う。巨人絶対ぶっ殺すマンらしく、作戦で巨人との戦闘を避けるというのが無い限りは必ず仕留めよという方針。
そのため、カイが所属となった班は他の班と比べて異常に討伐数が多い。熱血指導の故に新兵であるのにも関わらず、ベテラン兵士と同じ動きを求められるので、カイとシグルドは初日からぐったりとしてしまった。
そのせいで馬の名前を考えている暇もなく、今日また会いに行くということも忘れかけていた。
『名前何にしよう……昨日のうちにいくつかは考えてたけど……もしどれも気に入らないとかってそっぽ向かれたらまた考え直さないとだよな』
兵舎から馬小屋への暗い夜道を走りながら名前を考える。名前がなければずっと馬と呼び続けることになってしまう。それではあの馬も嫌に決まっている。他の馬は名前で呼ばれて愛されているのに、自分だけ生物名称なんて。
『ちゃんと決めてやらないと』
ここを曲がればもうすぐそこ、というところで目の前に人がぬっと現れた。このままではぶつかる、と足を止めてその場から飛び退こうとしたが、体勢を崩してしまいその場に尻もちをついた。
『っ……す、すみません!お怪我はありませんか!?』
「私は大丈夫だ。君の方が痛かったんじゃないか?」
『いえ、自分は大丈夫です』
ズキッと痛んだ腰を擦りながら顔を上げる。そこには二人の兵士が立っていた。
「すまない。こちらもよそ見をしていた」
そう言って金髪の彼は座り込んでいるカイに手を差し出してくれる。その手を取ろうと自身の手を出した時、彼の後ろにいた黒髪の男がこちらをじっと睨んでいることに気づいた。
「そいつの前方不注意だろう」
「それほど急いでいたということだ。こんな夜更けにどうしたんだ?」
差し出された手を取らず自力で立ち上がり、ズボンについた砂を取り払う。
『馬と約束してたんです。今日名前を付けてやるって』
「馬、と?」
『はい。もっと早く来れるはずだったんですが、訓練が長引いてしまって』
「君は新兵なのか?」
『今期より調査兵団に配属となりました、カイ・クラウンです』
ぺこりと軽く頭を下げると、相手はカイの事を頭からつま先までじっくりと見定めるように見てから緩い笑みを浮かべた。
「私はエルヴィン・スミス。分隊長をしている。彼はリヴァイだ。君と同じく、今期から調査兵団に入団した者だ」
エルヴィンの後ろから顔を出した彼は依然としてカイを睨みつけている。まるで毛を逆立てている猫のようだ。
『……調査兵団は人員不足なんですか?』
「壁外調査に出ればそれなりの犠牲は出るからな。だが、なぜ今それを?」
『随分と若い兵士が……いるものだなと』
エルヴィンに紹介された彼はとても小柄だ。身長の高いエルヴィンの隣に立っているせいというのもあるだろうが、きっと彼はまだそんなに人生を歩んでいないだろう。
近所に住んでいる子供とそう変わらない気がする。エレンよりかは大人びているようだが。
「おい、てめえ今なんて言いやがった」
『え、いや……』
「お前、何か勘違いしてないか?」
ずっと黙っていたリヴァイがエルヴィンの前へと出てくる。何故かブチ切れながら。
「こんなクソガキに下に見られるとはな」
『別に下に見たわけじゃない。ただ、調査兵団の死亡率を考えると……"子供の君が兵団にいる"のが心苦しくて──』
気づいた時には視界は反転していた。何をされたのかは分からない。ひっくり返った状態で呆気に取られていると、カイの前にリヴァイがしゃがんだ。
「外じゃなくて良かったな。じゃなきゃお前は今頃死んでただろうよ」
それだけ言い残してリヴァイはエルヴィンの元へと戻っていく。
「リヴァイ、手加減というものを覚えた方がいい」
「ふん。知るかそんなもん」
エルヴィンに手を借りてその場に座る。そろりとリヴァイの方を見てみると、彼は眉間に深いシワを寄せてこちらを見ていた。
「次、ガキ扱いしてみろ。てめえの頭は無いと思え」
『(この先やっていけんのかな……)』
調査兵団二日目にして、命の危機を感じた瞬間だった。
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