葬式(4)
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『お前……よくそんな事をッ!!』
シグルドの胸ぐらを掴んで揺さぶると、相手は不思議そうに首を傾げた。
「本当のことなんだから仕方ないだろ?」
死んだのが班長で良かったなんて思えない。それどころかそんなことを口にするなんて。
『今まで世話になった人に対して言うセリフがそれか!!』
「世話?俺は別にあの人に何かをしてもらった記憶は無い。むしろ恨んでるよ。初めての壁外調査でカイを置いていったことを」
『あれは俺が勝手な行動したからだ!班長は何も悪くない!』
「だとしてもだ。部下の行動を把握するのは上官の務めだろ。それを怠ったからお前は怖い思いしたんじゃないのか?」
頬にシグルドの手が触れる。優しく撫でる手つきはいつもと変わらないのに、何故か今は気持ち悪く感じた。
目の前にいる人物は本当にシグルドなんだろうか。
顔を上げてシグルドの顔を見る。そこには自分がよく知る表情。見間違うはずもない。これまでずっと憧れていた存在。
生まれてから初めて心の底から好きだと思った男。
『違う……』
「カイ?」
『なんで、こんなの……』
シグルドじゃない。
「あれ?シグルド?君も……って、なにやってんの?」
友人のところへ行っていたハンジが駆け足でこちらへと戻ってきた。シグルドとカイとの間に流れるただならぬ空気にハンジは何かを察し、すかさず二人の間へと無理矢理割入った。
「ちょっとちょっと!こんなところで喧嘩なんでしないでくれよ」
「喧嘩なんてしてません」
「じゃあなんでカイがこんなに落ち込んでるのさ」
「それはクラウス班長が亡くなったからでしょう。あれだけ生きていると信じていた人が死んだんですから」
シグルドの冷たい声にビクリと身体が震える。
「シグルド、あんたもう少し言い方ってもんを──」
「カイ、」
ハンジの言葉を遮り、シグルドはカイの方を覗き込むように声をかける。
「さっき言ったことは本心だから。俺はカイが死ななくてよかった。クラウス班長には悪いけど……」
『悪いと思うなら言うなよ……』
「そうだな。別にカイのことを庇ってくれたわけでもないし」
もう聞きたくない。
「なあ、カイ」
今すぐここから離れたい。
「ウォール・マリアが陥落した。今の時点では壁の穴の修復は不可能だ」
早く、早く。
「壁の中にいてももう安全じゃないんだよ」
『(早く……帰ってきて)』
「俺と一緒に、逃げよう?」
「シグルド!君は何を言っているのか分かってるのか!?」
「分かってますよ、ハンジ分隊長。でも、あなただってわかってることじゃないですか。壁の中に未来はないって」
『リヴァイ……さん』
早く帰ってきて欲しい。
「人類最強だかなんだか知らないけど、そんな人間に縋ったって何も変わらないし、この先無事に生きていられる保証なんてないよ。あんなやつのそばに居るくらいなら俺がカイを守るから」
目の前が真っ暗になっていく。ハンジが何か騒いでいる声が聞こえ、モブリットの背に庇われる。もう何も理解できないしたくない。
『(リヴァイさんに会いたい)』
「ハンジ」
「リヴァイ!やっと戻ってきた!」
「クラウンさん、リヴァイ兵長が戻ってきましたよ」
モブリットに声を掛けられてゆっくりと顔を上げると、リヴァイが眉間に深いシワを刻んでこちらを見ていた。
彼の姿を見た瞬間、張り詰めていた緊張が一気に解かれていく。
『リヴァイ、さ』
頼ってはいけないと分かっている。シグルドの言う通り、リヴァイに縋ってはいけないんだと。
班長の時のようにまた失ってしまうかもしれないから。
だから、だからこれを最後にしよう。
「お前ら何をして──」
『リヴァイさん……!』
これが最後。もうこの先、決して甘えない。
「カイ、何があった」
突然抱きついたというのにリヴァイは優しく抱きとめてくれる。背中に回った手はカイを宥めるように撫でてくれた。
『(もう、しっかりしないと。誰かに甘えてばかりはダメだ)』
守られてばかりじゃ失ってしまう。誰も失わないように強くならないと。
『(この人を失いたくない。ハンジさんも、モブリットさんもエルヴィン団長も……シグルドも)』
その為には強くならないと。誰かを守れるように。
「カイ」
だから今日だけは。
『リヴァイさん』
今日だけは許して欲しい。
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