葬式(4)
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「さて、私たちはクラウス班長に挨拶しに行こうか」
『……はい』
じっと自身の右手を見つめながら頷く。
リヴァイに行ってこいと言われ渋々手を離した。彼のマントを掴んでいた時はとても安心していたのに。手放した瞬間、ぽつんと一人その場に取り残されてしまったかのような不安と寂しさに襲われた。捨てられたわけではないのに、リヴァイが戻ってこないんじゃないかと。早く探しに行かなくてはという焦燥に苛まれる。
「カイ?大丈夫かい?」
『大丈夫です』
「そう?さっきリヴァイのマント掴んでたよね?不安なら私と手を繋ぐ?」
『あ……えっと』
「遠慮しなくていいよ」
ハンジはにこやかな笑みで手を差し出してくる。その手に自分の手を重ねてゆっくりと握ると、少しだけだが不安感が払拭された。
「クラウス班長の最期、リヴァイから聞いた?」
『はい』
「君のところの班長はとても勇敢だったと聞いてる。巨人に対して臆せず何度も立ち向かい、必ず仕留めていたと」
『……そうですね』
自分だけでなく、班員にもそうさせたくらいだ。班長は巨人にとてつもない憎悪や恨みを抱いていたのかもしれない。いつか聞いてみようと思っていた時にこれだ。もっと早く聞いていればよかった。
「巨人に食われてもブレードを手放さなかったって。腹の中で抵抗していたなんて……すごいなぁ」
班長は最後まで屈しなかった。巨人が吐き出した彼は下半身は跡形なく溶けていたが、上半身は無事だった。見つかった班長は両手にブレードを握りしめていたという。
『班長は……』
「うん?」
『班長は怖くなかったんでしょうか』
「どうだろう。きっと怖かったと思うよ。でも、それ以上の何かが彼をつき動かしたんだ。巨人に食われる恐怖より勝る何かが」
『クラウス班長が巨人に執着していた理由って知ってますか?』
「さあ、私には分からないなぁ。確か前団長と仲が良かったから彼なら知ってるんじゃない?」
前団長、キース・シャーディス。そういえば、何度か班長と親しげに話をしていたのを見たことがある。
でも、班長のことを聞きに行くだけの勇気は無い。
「カイ、ほら渡しておいで」
『あ、はい。ありがとう、ございます』
花を渡されて受け取ると、ハンジは自分の友人の所に顔を出してくると言ってその場を離れていった。
兵士の家族らしき人達が焼けた骨を手にして咽び泣いているのを眺める。
本来は遺体の埋葬は土葬とされているのだが、巨人に食われたことによる遺体の損傷、そして放置されていたことにより寄生虫や蛆が住み着き、異臭と伝染病の温床になってしまった。
そのため土葬にすることが出来ず、巨人の腹の中に入ってしまった兵士たちの遺体は火葬となる。
誰が誰だか分からなくなってしまう火葬に遺族のもの達はただ泣き叫ぶことしか出来なかった。
「カイ」
空に立ち上っていく煙を無感情に見ていたカイの元へとシグルドが来た。
『シグルド……』
シグルドに会うのは二週間ぶり。最後に見た時より少しやつれているように見えた。
「班長見つかったんだってな」
『うん。奇跡的に形を保ってたって』
「そっか」
カイの隣に立ってシグルドも煙を見つめる。
「その……殴って悪かった」
『いいよ。あれは俺が悪かったんだし』
「でも痛かっただろ」
『まあ……それなりに』
身体的な痛みより精神的苦痛のほうが酷かった。シグルドに殴られたという事実と共に、班長を探すのを諦めろと言われたことがとても辛くて。後々になって顔が痛いと思ったくらいに。
「殴ったことは謝るけど、殴った理由については謝らないからな」
『……うん』
「俺は今でもお前を引き止めて良かったと思ってる」
『分かってる』
改めて言われなくても分かっている。あそこで飛び出したところで班長を見つけることは出来なかっただろう。巨人の腹の中となってしまったら誰だって見つけられない。
「……俺はカイがああならなくて良かったって。心底安心してる」
シグルドの言葉に思考が止まる。頭から冷水をぶっかけられたかのような気分。
『何……言って』
「"あそこに"いるのがカイじゃなくてよかった」
そう言ってシグルドはいつもの柔らかい笑みをカイに向けた。
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