葬式(4)
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~Levi~
「やあ、カイ!久しぶりだね。元気に……してはいなかったみたいだけど」
『お久しぶりです』
「うんうん。顔色は悪そうだけど、外に出てこれたんだね。それだけでも私は嬉しいよ。ところで……君たちなんか近くない?」
翌日、リヴァイとカイは調査兵団本部へと顔を出していた。
エルヴィンの所に昨日のことを報告し、その足で兵士たちの葬式へと出向くことになった。
葬式といってもリヴァイたちがすることは何もない。ただ、亡くなった兵士たちの家族から糾弾を受けるだけのこと。それを主に請け負うのは団長であるエルヴィンだ。団長就任がもう少し遅ければ、その役はキース・シャーディスだったのだが、ウォール・マリアが陥落したと同時期頃に彼は団長の座をエルヴィンに譲り渡してしまった。
「ハンジ、こいつのことを頼む」
「それはいいけど……」
自分にくっついて来たら確実にカイも民衆の心無い言葉を浴びることになる。それだけはどうしても避けたい。
「カイ、お前はハンジと居ろ」
『リヴァイさんは?どこに行くんですか?』
「俺は……」
街の人々の言葉を受け止めに行く。そう言ったらこいつもついてきてしまいそうだ。
「亡くなった兵士に花を手向けてくる。お前も行ってこい」
じっと見つめてきたのち、カイはこくりと頷く。ずっと掴んでいたリヴァイのマントを手放し、カイはハンジに連れられてこの場を離れた。
その背中を見送ってからリヴァイはエルヴィンの元へと向かった。
「この人殺し!!」
「調査兵団なんて無くなっちまえ!一体どれだけの人間を殺すつもりなんだ!!」
「あんたらが壁の外になんか出なければ巨人が壁を壊すことも無かっただろう!」
投げかけられる言葉一つ一つがエルヴィンへと突き刺さる。それを顔色一つ変えずに受け止めるもんだから、民衆たちは次第に不気味がって離れていった。
「エルヴィン」
「リヴァイか。カイはどうした」
「ハンジに任せた。ここには居ない」
「そうか。それならいい」
強ばっていた顔が少しばかり緩む。エルヴィンもまたカイの心配をしていたらしく、ここに連れてきてないと伝えるとほっと安心したように力を抜いた。
「こんなもんでへこたれてるようじゃ人類の未来は任せられねぇな」
「へこたれてなどいないさ。ただ、」
遠ざかっていく民衆の背中をじっと眺めながらエルヴィンは深く息を吐く。
「今までの調査兵団団長はこんな思いをしていたのかとな。これは……きついな」
そう言いながらもエルヴィンは表情をピクリとも動かさない。無表情のまま去っていく人たちをただ見つめていた。
「泣き言言ってんじゃねぇよ。てめぇの大いなる野望を叶えるためにその地位に着いたんだろう。街の奴らに文句言われたくらいで諦められるような中途半端なもんなのかそれは」
この程度で揺らぐような男では無い。だから慰めなど必要ないだろう。本人もそんなものを欲しいとは思っていないはずだ。
後悔の記憶は次の決断を鈍らせる。そして、決断を他人に委ねるようとするだろう。
それはエルヴィンに言われた言葉だ。あの時のことは昨日のことのように思い出せる。
「もう用はないな。俺はカイの方に戻る」
「ああ。わかった」
エルヴィンの側を離れてカイの元へと向かう。今頃クラウスに別れを告げているだろうと。
「ハンジ」
「リヴァイ!やっと戻ってきた!」
「あ?何かあったのか」
ハンジとモブリットのホッとした顔を訝しげに見る。そういえばここに来るまでに他の兵士たちが言い争いをしているとこそこそ話しているのが聞こえた。
シグルドとハンジ、そしてその後ろでモブリットがカイを庇うように立っている。その光景でなんとなく察してしまった。
「お前ら何をして──」
いるんだ、と言いかけた時、どんっ!と前から誰かに飛びつかれて身体が傾く。咄嗟に飛びついてきた身体を片腕で抱き留めると、ガタガタと震えているのを感じた。
「おい……」
『リヴァイさん、リヴァイさん……!』
「何があったんだ」
グズグズと泣いているだけでカイはそれ以上何も言わない。その代わりというようにリヴァイの背中に回っている腕に力がこめられ縋るように上着が掴まれる。
そんなリヴァイたちを不機嫌そうに見つめる目。
「カイ、シグルドを置いてきたのか」
喧嘩しているとはいえ、片想いしている相手を前にして他の男に飛びつくのは如何なものか。
シグルドの名前を出してもカイはリヴァイから離れようとしない。むしろリヴァイを抱く腕に力が込められていく。
「シグルド、お前何しやがった」
「別に」
ふいっと顔を背けてシグルドはその場を離れる。その後ろ姿を目で追った。
「ごめんよ。私がちゃんと見てればこんなことにはならなかったんだ」
「おい、俺が離れてから数十分しか経ってねぇだろうが」
そんな短時間の間に何があったというんだ。
「実はさ──」
ハンジから聞かされた話にリヴァイは奥歯をグッと噛み締める。未だに泣いているカイを強く抱きしめて頭を撫でた。
「(歪み始めてるな。このままじゃこいつが危ない)」
最初からシグルドのことを危険視していたが、今はもうそんなレベルの話では無い。向こうが変なことをしてくる前に離さなくては。
クラウスが死んで弱っているカイがこれ以上傷つけられないように。
「帰るぞ」
視界に映る煙を目に焼き付けながらカイの手を引いて馬の元へと歩きだす。
これからどうやってカイを守ろうかと黙考して。
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