葬式(4)
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
~Levi~
「あっ、リヴァイ兵長!お帰りですか?」
「ああ。カイの様子はどうだ?」
「変わらず部屋に閉じこもったままです」
部下の手には夕飯を乗せた盆。作りたてのものなのかスープからは湯気が立ち上っている。
「貸せ。俺が持っていく」
「お願いします。彼、こっちに来てからまともに食事を摂ってないんですよ」
盆を受け取って先に休むように声をかけるも、部下は不安げな顔でその場に立ち尽くしていた。
「自分もクラウスさんにはとても良くしてもらいました。あの人、凄く厳しい人ですが、班員のことを一番に考えてくれる人なんです。だから彼が落ち込んで部屋から出て来れないのもわかります。でも、これ以上はクラウンさんの身体が悪くなってしまうので……どうか、お願いします」
まだまともに話もしていないというのに。ここまで心配されているとは。
部下の為にもカイの為にも何とかしなくてはならない。
「分かった。長くあいつの世話を任せて悪かった。あとはこっちでどうにかする」
深々と頭を下げた部下を部屋に帰らせ、その背が見えなくなってからリヴァイはカイの部屋へと向かう。
リヴァイの部下となったカイには個室が与えられている。内側から鍵が掛けられる部屋なのだが、カイの状態を鑑みて事前に鍵は壊しておいた。
内鍵を掛けられてしまっては外からは何も出来なくなる。そうなったら色々とまずかったからだ。
部屋の扉の前に立って暫し立ち止まる。中からは物音一つせず、泣き声も聞こえなかった。
「カイ、俺だ。入るぞ」
ノックしてから扉を開けると中は真っ暗だった。眠っているのかと思ったがそうでもないらしい。
暗い部屋に微かに入り込んでいる月光。
ベッドに座っていたカイは開け放っている窓から夜空をじっと見つめていた。
「風邪ひくだろうが」
部屋の中に一歩踏み込むとひやりとした空気に身が震える。もしやずっと窓を開けっ放しにしていたのか。
サイドテーブルをベッドの横に置き、その上に盆を乗せる。部屋の中をぐるっと見渡して椅子を探したがどこにもなく、仕方ないとリヴァイはベッドの端に腰掛けた。
「いつまでそうしてるつもりだ」
リヴァイの問い掛けにカイは答えない。感情が抜け落ちた顔でただ外を眺めている。
「飯くらい食え。部下の奴らが持ってきてるだろう」
どれだけ待っても返事は来ない。そうなると段々生きているのか怪しく思えてきた。
「カイ、聞こえてるなら返事をしろ」
いつまでも無言を貫くカイにいよいよ不安が湧き上がってくる。目の前にいる人間は本当に生きているのか?もしかして死んでいるんじゃないか?
「おい……まさか死んでるんじゃねぇだろうな」
肩を揺さぶってみても反応は無い。咄嗟にカイの手を掴む。夜風にあたり続けていた手はひんやりとしていてまるで死人のよう。ぞわりとした寒気に襲われながら、リヴァイはカイの手首に親指を這わせる。
「生きてるなら反応しろ!」
指の腹に伝わってくる脈の振動。ちゃんとカイは生きているのだと安心した反面、人を無駄に心配させやがってと苛立ちも湧き上がる。
カイの頬を両手で挟み込むようにして無理矢理自分の方へと向かせる。虚ろな目が暗雲からリヴァイへと移った。
『リ……さ、』
微かに自分を呼ぶ声が聞こえる。
『リヴァイ……さ、ん』
「ああ、ここにいる」
リヴァイの存在を確かめるように何度も名前を呟いたかと思えば、カイはほろりと涙を零した。
「聞こえてるなら返事をしろ。死んでるのかと思っただろうが」
『それは……こっちのセリフです』
「は?」
『だって、リヴァイさんあの日から……居なくなったから……班長みたいに突然居なくなったから』
リヴァイの手の甲にカイの手が重なる。きゅっと掴まれてカイの頬から離せなくなった。
『よかった……ちゃんと生きてる。よかった』
パラパラと降っていた水滴が次第に大降りになっていき、リヴァイとカイの手を湿らす。
「お前を置いて死ぬわけないだろう」
人の死に敏感になりすぎてしまった哀れな子を慰めるように抱き寄せる。
「ちゃんと生きてる。だからそんなに泣くな」
『はい……』
.