初めまして(1)
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「えっ、シグルド調査兵団に行っちゃうの!?」
「おう!そこに決めた」
「なんで!?憲兵の方が安全じゃない!」
「んー、何でだろうねー?」
訓練兵卒業の日、同期の者たちが別れを惜しんでいるのをカイは少し離れた所で見ていた。
結局、シグルドは憲兵を選ばずに調査兵団に決めた。自分と同じところにすると言っていたのは冗談だと思っていた。まさか本当に同じところにするとは。
「そんな……それじゃ……シグルドとは……」
「そんな一生会えないってことでもないだろ?死なないようにすればいいんだし。そんな簡単に死ぬわけにはいかないからさ」
女子たちに囲まれているシグルドがちらりとカイの方を見る。その視線に気づいた周りの取り巻きは皆、カイのことを睨むように見た。
『怖……あれ絶対俺の事恨んでるじゃん……』
彼女たちはシグルドが自分のことを構い倒しているのを知っている。だから常日頃からカイのことをよく思っていないのか、一言も口をきいたことがない。だが、今日はその我慢も出来なくなったらしく、取り巻きの数人が怒りをあらわにしてこちらへとやってきた。
「あんた調子に乗ってんじゃないわよ」
『乗ってないけど……』
「こんなやつがシグルドの友達なんて最悪だわ。お前だけ調査兵団に行けばいいのに」
『そのつもりなんだけど……。むしろ君たちから言ってくれよ。調査兵団じゃなくて憲兵に行けって』
「あんたがシグルドを誘惑したんでしょ!?」
誘惑ってどういう意味だ。女子たちは口々にお前が悪いと罵ってくるが、カイは一度もシグルドに調査兵団に来いと言ったことは無い。むしろ自分についてこなくていいと断り続けている。それなのにシグルドは頑なにカイについて行くと言ったのだ。
『あいつを誘ったつもりはない。今からでも憲兵に行ってもらいたいのは俺の方なんだけど』
「だったらハッキリそう言いなさいよ!!」
『言ってるっつうの!無視してんのはあっち!』
「今ちゃんと言って!!早く!!」
初めて彼女らと話をしたが、こんなにも人の話を聞かない人達だったのか。いつもこの子達を相手していたシグルドは聖人だったのではないかと密かに笑ってしまった。
「俺は憲兵に行かないよ?」
『そう言われましてもねぇ。この子達が俺を許してくれないんだわ』
「俺言ったよね?自分の意思で調査兵団に行くんだって」
「そんなの嘘よ!どうせこいつにそう言うように言われたんでしょ?!」
「ええ……そんなふうに言われるの?」
『人の話を全くと言っていい程聞かないんだよ。なんかもう面倒臭いからお前憲兵に──』
「しつこいな」
今まで聞いたことの無い低い声。シグルドのそんな声にうるさかった女子たちはしんと静まり返る。どうしたんだ?とシグルドに声を掛けようとしたら、前からふわりと抱きしめられた。
「悪いけど、俺は憲兵には行かないよ。あんな腐りきった兵団に誰が行きたいと思うんだよ。俺は君たちみたいに税金泥棒になるつもりはない。憲兵をどういう風に見ているのかは知らないけど、あんな堕落した人達の中に入るくらいなら俺は人類の未来を見据えた兵団に入るね。それに……こいつは俺が居ないと危なっかしいから。君たちのように流されてるだけの子じゃないんだ。誰かが見てないと」
普段穏やかな奴が怒ると怖いとはよく言ったものだ。シグルドの低く唸るような声に女子たちは震え上がり、耳元で聞かされたカイは背筋が凍った。
だが、そのおかげでそれ以上彼女たちが文句をつけてくることなく、無事各々の兵団へと行った。
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