アデライン(2)
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「鞍は君が付けた方がいいな」
『……はい』
エルヴィンから鞍を受け取り、アデラインが馬房から出てくるのを待つ。
リヴァイが鍵を外している間、不安で仕方なかった。もしアデラインに拒否されたら。今日乗ることが出来なかったらアデラインは殺処分されてしまう。
自分のせいでアデラインは壁の外を知らずに殺されてしまう。底知れぬ不安と焦りで鞍を持つ手が震える。
一匹の馬の命運が自分の頼りない肩にかかっているんだと気付かされ、ここから逃げ出したいとさえ思った。こんな重責を背負えない。もし間違えたらアデラインを殺してしまう。これまでカイのことを信じて心を開いてくれたアデラインを。
「しっかりしろ、カイ」
暗くなっていく視界の中にリヴァイが踏み込んでくる。
『……リヴァイさん、やっぱり今度に』
「こいつを殺したいならそうすればいい」
『……っ』
「生かしたいのなら乗れ。もうこいつには後がねぇ」
リヴァイに連れられてきたアデラインはカイの前に立つ。見定めるようにじっと見つめてからリヴァイの手を離れてこちらへと歩き出した。
『アデライン?』
カイの周りをぐるぐると回る。その姿をただ見ていたらアデラインはピタリと足を止め、そしていつものように鼻先を頭に擦り寄せて来た。
『アデライン、背中に乗っても……いいか?』
優しく首筋を撫でながら鞍を見せる。
『嫌なら逃げてもいい。いや……このまま逃げよう。好きなところに行かせてやるから』
殺処分されるくらいなら逃がした方がいい。後で班長に叱られるかもしれないが、アデラインが自由になれるというのならそれくらい耐えてみせる。たとえ兵団を追い出されたとしても。
鞍を手放そうと手を緩める。すると、アデラインが落ちそうになった鞍を咥えて、カイの腹へと押し付けた。
『アデ……ライン』
「カイ、乗れ」
黙って見守っていたリヴァイに促されて頷く。
アデラインの背に鞍を取り付けてから再度問いかける。
『嫌だったら振り落としていいからな?我慢はしなくていいから』
一呼吸置き、覚悟を決めて足をかけた。アデラインに負担が掛からないように慎重に身体を持ち上げて背に跨る。嫌がられたらすぐに降りられるように鐙には足を掛けず投げ出したままにして。
皆が固唾を飲んで見守る中、リヴァイだけは穏やかな表情でカイたちを見据える。
「どうだ?人を乗せるのも悪くはねぇだろう」
アデラインはカイを振り落とすことなく乗せている。我慢している様子もなく、むしろ誇らしげだ。
「アデライン、こいつを振り落とさないなら自由に走ってきても構わねぇ」
『えっ、いきなり!?』
「乗せただけじゃ分からねぇだろ。少し走ってこい」
そう言ってリヴァイはアデラインの尻を軽く叩く。ゆっくりと歩き出したアデラインは徐々に激しく動き始めた。緊張で手綱を掴んでいる手にじとりと汗が滲む。
『お、お手柔らかに……』
馬に乗るのは初めてではないが、アデラインがどんな走り方をするかわからない。今まで狭いところに押し込められていた馬が自由に駆け出すとなると、どうなるか想像もつかない。
でも、アデラインが走れるというのなら。
『いいよ、行こう。好きなだけ走ろう』
手綱をしっかりと持ち、鐙に足を掛ける。アデラインの立派な鬣を梳くように撫でて声をかけた。
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