第二十一幕
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なんだか騒がしい。
騒ぎ声で目が覚め、カイはフードを取り払う。一番に目に映ったのはオレンジ色に染まった空。白い鳥が自由に空を飛んでいるのが見え、口元が弧を描く。
だが、それも瞬時に元に戻った。
周りから聞こえてくる人間の罵声によって。
「どれだけの人間を殺せば気が済むんだ!」
「無駄に金と人間を消費しやがって!」
「息子は……私の息子はどこですかッ!!」
ああ、まただ。壁外に出る度に浴びせられる言葉。
外で巨人相手に神経をすり減らし、中に戻ってくれば今度は住民たちからの言葉で心を切り刻まれる。
これは何度受けても慣れることは無い。
「待って、待ってください……!」
数ある暴言の中で、聞き慣れた声がカイの耳に入った。
「誰か知りませんか!」
『……サラ?』
その声はサラの声だった。誰かを探しているのか、必死に声をかけ続けている。
「誰を探している」
「あ、ああ……リヴァイ兵士長!大事な子なんです。どうか、どうか!」
「名前は?」
「カイ、カイ・クラウンです!」
「カイ……だと?」
サラの必死さに哀れに思ったのか、その声をリヴァイが拾いあげてくれていた。
返事をしようと身体に力を入れるも少し起き上がったところで力が抜けてしまい、腕を外に出すことしかできない。リヴァイに聞いているのであれば、自分の所へと連れてきてくれるだろう。でも、なんだかそれは情けない気がして、カイはサラを呼びながら手を振った。
『サラ!!』
「はっ……カイ!!」
前から走ってくる音が聞こえ、荷馬車の兵士に馬を止めるように声をかける。
「カイ!あんた大丈夫なのかい!?」
『うっわ、すげえ久しぶりに会うな』
「生きて……いたんだね!?」
『生きてる生きてる。サラも無事だったんだな』
トロスト区が巨人に侵入され、サラも内地に逃げただろうと思っていた。今までバタバタと忙しかったから彼女の行方を探すことも出来なかった。
もし巨人に食われていたら。その死を受け入れられる気もしなかったので、あえて探さなかったというのもあるけど。
「良かった……。憲兵の奴らが話してるのを聞いたんだよ。あんたが命令違反して捕まったって。処刑されるだろうって。あんたまで憲兵に殺されたらと思ったら恐ろしくて寝れやしなかったよ。そしたら近所のやつがカイを見たって。壁外調査に参加してたって言うからもうあたしは何が何だか……」
"あんたまで"という言葉にずきりと胸が痛む。
『あー……ごめん。命令違反の方はもう片付けてもらったから大丈夫。それとほら、前話したろ?憲兵に入る前は調査兵団だったって。色々とあって戻ったんだ』
だからなんも心配は要らないんだと笑みを向けると、サラは目を見開いて固まった。
「あんた……」
『ん?なに?』
人の顔をじっと見つめたかと思えば、サラは安堵の表情を浮かべながら横にいるリヴァイの方へと顔を向けた。
「リヴァイ兵士長、貴方がこの子を助けてくれたんですか?」
「そいつは自力で戻ってきた。俺が助けたわけじゃない」
「そうじゃありません。壁外でのことではなく、カイの心の方です」
「どういう意味だ」
「この子の体調がおかしかったのは知っているでしょう?いつもフラフラして顔色も悪かったんです。そんな子が今では顔色も良く、笑えるようになってる。貴方がこの子を救ってくれたんですか?」
サラの問いにリヴァイは何も答えない。だが、サラはリヴァイの表情から何かを汲み取ったのか、嬉しそうに笑っていた。
「そう……ありがとう。この子は私にとってかけがえのない子なの。息子同然なのよ。でも私にはこの子を助けられなかったわ。でも、貴方は助けてくれたのね」
サラは何度もリヴァイに頭を下げて感謝を述べるとカイの方へと向き直る。
「まったく。調査兵団に戻ったのなら一言言いなさいな。心配したじゃないか」
『あー、それについてはごめん。ちょっと忙しかったんだよ』
「次からはちゃんと言いに来な!」
『りょーかい』
「ちゃんと顔をお見せ」
『ん、』
「ああ……無事でよかった」
泣くのをずっと我慢していたのか、サラの目は赤く充血していた。溜まった雫がポタリとカイの顔に落ちて頬を伝っていく。
『サラ』
「なんだい」
『心配してくれてありがとう』
「何言ってんだい。あんたはアタシの息子みたいなもんだよ。息子のことを心配しない親がどこにいるってんだい」
そう言ってサラは荷馬車から離れていった。
──息子のことを心配しない親がどこにいるってんだい。
『……母さんも……心配してた……のか?』
訓練兵になると言って飛び出したきり両親とは会わずにいた。どうせ会っても怒られるだけだと思っていたから。
それにずっと燻っていたこと。親に会いづらかった理由。
『俺じゃなくてあいつが生きてたら……』
幼くして死んだ妹が生きていたら。親はとても喜んだはずだ。言うことを聞かなかった息子より、大人しく可愛かった妹だったら。
『心配なんてするわけないか』
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