第十八幕
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『ははっ、すげぇウザったいだろ』
巨人の周りを飛び回る様はまるで小バエのよう。自分だったらひっぱたいて殺している。
それは巨人の方も同じで、顔の前をフラフラしているカイを殺そうと手を動かしていた。
後続の兵士たちに声をかけて下がらせ、カイは一人でこの巨人の相手をしている。このままではエレンたちに追いついてしまうからだ。付かず離れずの距離感を保つにはこれしかなかった。
『(やばいなぁ。作戦をほとんど聞いてなかったからどこで引き上げればいいかわかんねぇ)』
巨大樹の森にて裏切り者を捕縛する。その事は頭に入っているが、どの地点で巨人を捕らえるのかは忘れてしまった。
『それにしても何も知らされてないアイツらがよく耐えたもんだな。普通なら怖くて飛んじゃうだろうに』
それほどリヴァイへの信頼が厚いというのか。目前にまで迫ってきている巨人に対して背中を向けて走り続けるなど並大抵の精神力では出来ない。あれはいくら経験があっても難しいだろう。
前を走っているリヴァイが走れと指示したから走っている。ただそれだけの事なのだが、それに大人しく従えるものが果たしてどれだけいるか。
『新兵だったら確実に文句言ってるわ。このクソチビって』
あれだけの仲間を犠牲にしておいて逃げるとは。きっとエレンと同じことを叫んでいただろう。この先で起こることを知らなければ。
掴もうとしてくる手をひらりと躱して巨人の前へと躍り出る。表情が変わらないので何を考えているのかはわからない。でも、段々と速度が落ち、カイを捕まえようと手を動かしているところからして、中にいる人間は目の前の人間を殺そうと躍起になっているはず。
『残念。それじゃ捕まえられないなぁ』
これならまだリヴァイの方が速い。リヴァイが鬼ごっこで鬼役の時は死ぬ気で逃げたのだから。
どこに隠れようにも必ず見つけられる。音に気をつけ、気配を消し、息を殺して耐え忍んでもいつの間にか隣にいる。逃げたとしても物凄い勢いで追いかけてくるものだから恐ろしい。
『こうなることを想定してた、にしてはあまりにも似たような状況なんだよなぁ』
壁外遠征の三日前にも鬼ごっこをした。その時はカイが逃げる役。しかも今と同じ、ガス缶の替えをアデラインに持たせて。
結果はカイの負け。木の頂上付近で休んでいるところで捕まってしまった。その時に気を抜くなと怒られてイラッとしたものだ。
きっとあの練習がなければ感覚を完全に取り戻すのは不可能だっただろう。お陰様で、と礼を言わなければならないのだが、ここでカイを使うためだと言われそうで。こうなることを事前に分かっていたのであれば言って欲しかった。普段お気楽に過ごしているけど、いざという時はカイにだって身構えが必要だ。
『まったく……ここで死んだらどうするつもりだったのやら』
きっとそんなこと考えてもいなかっただろう。だからカイを最後尾に配置した。必ずやり遂げると信じて。
『期待が重いなぁ。ちゃんとやりますけども』
カイの動きに翻弄されて体勢を崩す巨人にほくそ笑む。ああ、やっぱりリヴァイとの鬼ごっこは楽しかったなぁと。
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