第二幕
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『あっちゃー……これはやられたな』
はああぁ、と肺の中の空気を全部押し出すようなため息をつく。
カイの視線の先、補給物資がある建物。そこは巨人が群がっていた。
アルミンを連れて屋根に登り、彼の仲間を見つけたところまでは良かった。後は壁を上ってこの地区から脱出すれば任務完了となる。
それが今では問題となっていた。訓練兵は初めての巨人討伐で疲弊している状態に加え、ガスの残量も少ない。ガスの補給をしようにも、拠点が巨人に襲われてしまって近づくことも出来なかった。
本来であれば、中にいる補給兵がガスの手配をしてくれるはずなのだが……。
『あれだけ囲まれたらそりゃ怖くて動けねぇよなぁ』
建物から出れば巨人に殺される。身を守るためには立てこもるしかない。中にいる人間の気持ちは痛いほど理解出来る。
『どうすっかな。倒せなくはないけど……』
自分一人であればどうにかなる数だ。でも、後ろにいる訓練兵たちを引き連れていくとなると話は変わってくる。
出来ればこれ以上の犠牲は出したくない。彼らは十分戦った。まだ共に居れたはずの仲間を目の前で失いながら彼らは懸命に生き残ったのだ。その命を無駄にしたくない。
『あいつだったら……この状況どうすっかな』
一人であの巨人を倒してしまいそうな気がする。足でまといだとか何とか言って。
『口は悪いけど仲間思いだからなぁ。犠牲を増やすのなら自分が、って動きそうだ』
それならばやることは一つだ。
『ええと……アルミン、俺は……うん?』
絶望した顔で座り込んでいるアルミンに寄り添うように女の子が膝をついていた。彼女が話しかけるとアルミンは泣きながら顔を上げる。その表情を見た瞬間、女の子の顔から感情が消えた。
ああ、誰か親しい人が亡くなったんだな。
『アルミン』
「あっ、カイさん」
「カイ……?」
『このままじゃここで全員巨人の餌食になる。補給物資さえ手に入れば動けるだろうから、俺ちょっと行ってくるわ』
「えっ……ど、どこに行くんですか」
『どこってそりゃ……あそこに』
補給基地を指差すと、アルミンは青ざめた顔で基地とカイを交互に見る。
「無謀ですよ!あの数の巨人を一人で相手するなんて!」
『でもやらなきゃ全滅する』
「それは……そうですけど」
『大丈夫だろ。多分。上手くいくとは思ってないけど……何もしないでここで眺めてるよりは、何かしたほうがいい。ほら言うだろ?やらずに後悔するより、やって後悔した方がいいって』
動いた結果死んだとしても、カイが動いたことによってここに居る訓練兵が生き延びることが出来たのであればいい。もし、全滅したのならそれもまた運命だったということで諦めるしかないけど。
「カイさん?……カイ?」
『ん?君は……』
女の子がカイの名前を呼びながら首を傾げる。その顔はどこかで見た覚えがあった。
『あれ?まさか……先生のところの子供か?』
こくりと頷く彼女。
最後に会ったのはいつだっただろうか。先生の息子の方はよく覚えているが、彼女のことは数えられるくらいしか会っていなかった。
『ミカサ、だったか。元気にしてたか?』
「うん。カイも」
『あー、とりあえず?』
苦笑いを浮かべるカイにミカサはどこか暗い表情。
なんとなくその雰囲気で察してしまった。彼女の大切なものが喪われてしまったことに。
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