第十六幕
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「カイはさ、好きな人とかいるのか?」
暫し星空を眺めていたらぼそりとエレンが呟いた。聞かれている内容に一瞬思考が止まる。
『好きな人?』
「そう。いんの?」
『好きな人ねぇ。前はいたけど、今はいないなぁ』
「前はいた!?」
『うおっ、そんなに驚くことかよ』
ガバッと起き上がって驚くエレンにカイも驚いて身構える。
「どんなやつ!?」
『どんなって……。普通に優しい人?よく笑う人だった。どれだけ絶望的な状況でも諦めずに前を見てたんだ』
「その人って……」
『死んだよ。俺の目の前で巨人に食われて』
カイの言葉にエレンは絶句。聞いてはいけないことを聞いてしまったと申し訳なさそうに顔を伏せるので、苦笑いを浮かべてエレンの頭をわしゃっと撫でた。
『俺のせいで死んだんだ』
あの光景は忘れたくても忘れられない。
自分の勝手な行動のせいで死んでしまった。自宅を確認しに行かなければ。仲間の引き止める声に耳を傾けていれば。あの人は死なずに済んだ。
巨人の接近に気づいていたら。彼が自分を庇って死ぬことは無かったのに。
『好きだった人も守れないくせにリヴァイたちを守りたいなんておかしな話だよな』
「おかしくねぇよ。なにもおかしくない」
『エレン?』
泣きそうな顔で繰り返し呟く。どうしたんだと声をかけてもエレンはなんでもないと頭を振った。
『ほら落ち着けよ。どうした?お前がそんな顔することないだろ?』
起き上がってよしよしと頭を撫でるもエレンは俯いたまま。これでは本当に泣き出してしまいそうだ。
『エレン』
頬に手を添えて下を向いていた顔を上げさせる。何故か悔しそうに唇を噛み締めていて、こちらが辛くなってきた。
「お、れが……俺がその場にいたら……」
『うん?』
「俺がカイのことを──」
エレンの言葉は最後まで紡がれることは無かった。こちらに近づいてくる足音に気づいてそちらに顔を向けてしまったからだ。
「てめえらここで何をしてやがる」
月明かりを背にして立っていたのは眉間に深いシワを刻んでいるリヴァイ。
『あ、しくった。つかここ……』
リヴァイの部屋の窓から丸見えの場所。そのことに今更気づき、冷や汗がたらりと落ちる。
「勝手な真似はするなと言ったはずだ。お前は俺の監視下にあることを忘れたのか」
「す、すみません!」
『待った。これは俺が悪い。眠れないから散歩に付き合ってくれってエレンを連れ出したんだわ。こいつは悪くない』
エレンに向けられていた眼光がカイへと移る。その瞳の鋭利さに斬り殺されそうだ。
「エレン、地下室に戻れ」
「はい」
素直にリヴァイの言葉に従ってエレンはとぼとぼと城へと歩き出す。その後ろ姿を眺めていたカイにリヴァイは冷たく言い放った。
「それとカイ。お前は暫くエレンとの接触を禁ずる」
『はっ……え、そこまでする!?』
「お前はエレンを甘やかす節がある。ただの部下であれば見逃してやったが、あいつは監視対象だ。てめえの安易な行動でエレンの生死が左右されるということをいい加減理解しろ」
『そ……んなの』
リヴァイが言っていることは正論だ。だから何も言い返せない。
「今後、このようなことが続くようであればお前は班から外す。肝に銘じておけ」
『……わかった』
こくりと頷くとリヴァイはカイに背を向けて歩き出す。
あれは本気で怒っている。謝ったところで許されるようなことでもない。
エレンにも悪いことをしてしまった。一日に二回も怒られるとは思わなかっただろう。
片手で頭を抱えてため息を零す。自分の馬鹿さ加減に笑ってしまいそうだ。
「おい」
『わかってるって。エレンには近づかない。それでいいだろ?』
ため息を聞かれてしまったのか、リヴァイに声をかけられてビクリと肩が揺れる。これ以上怒らせることのないように返事をしたのだが、どうやら違ったらしい。
「部屋に戻るぞ」
『え?あ、うん』
早くしろと急かされ慌てて立ち上がる。
城に戻って鍵をかけ、自室へと向かう。そのままベッドに横に、というところでカイは口を開く。
『えっと……』
「なんだ」
『部屋に戻らねぇの……?』
何故かリヴァイは部屋までついてきた。しかもカイがベッドに横になると、その端に腰を下ろして足を組んで。
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