第十五幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
弟。カイの言葉をエレンは反芻する。
自分はカイの事を兄だと思えない。
そんな言葉では留まらない感情を抱いてしまったから。
机に寄りかかりながらリヴァイを見ているカイの横顔をちらりと見る。自分と話していた時はとても優しげに微笑んでいた顔が、今では不貞腐れたような表情。
兵長であるリヴァイと口喧嘩が出来るということは長い付き合いがあるということだ。でなければ、あんな砕けた話し方はしない。
それにリヴァイは何かとカイのことを気遣っている気がする。いや、もうこれは気がするどころの話では無い。
エレンが巨人化してトロスト区を大岩で塞いだ時、そして審議所でカイが倒れたとき。リヴァイはカイのことを助けていた。
ここ数日の間でリヴァイの人となりを少し知った。だからこそ違和感を感じる。
何故カイにだけあんなにも優しいのかと。
「(変だ。ハンジ分隊長もカイと仲が良いみたいだけど、リヴァイ兵長ほどじゃない。エルヴィン団長は……なんだかカイが嫌ってるみたいだけど)」
嫌な予感がする。こういうのは大抵当たってしまうのだ。
「おい、カイ」
リヴァイがカイを呼ぶ。その声にエレンがビクリと反応してしまった。
『なんだよ』
「これ以上の実験は無駄だ。引き上げるぞ」
『先に戻ってていい』
「なんだと?」
『俺とエレンはここで少し休んでくから』
リヴァイの指示を断ってカイはそっぽ向く。そんな事をしてしまえばリヴァイも不機嫌になるわけで。
「そいつの監視役は俺だ。お前じゃない」
『だからなんだよ。いいだろうが少しくらい』
「良くねぇ」
自分も話に入っているが下手なことは言えない。本音を言えば、このままリヴァイたちと旧本部へ戻るより、カイと共にここに残って休みたい。巨人化出来なかった申し訳なさを落ち着かせたいから。
だが、そんなことは許されないだろう。エレンの身柄はリヴァイが握っているのだ。拒否すればそれは反逆行為とみなされてしまう。
「カイ、戻るんだろ?」
『大丈夫なのかよ』
「俺は大丈夫だから」
『なんでこうも子供に気を遣わせるかなぁ』
"子供"
カイの中で自分は幼い子供のまま。子守りをされていた頃からもう十年経っているのに。どれだけ年月が経とうともカイの目に映っているエレンは子供でしかない。
「違う……」
『エレン?』
「俺は……もう子供じゃない」
ぼそりと呟いてしまってからハッと口を塞ぐ。恐る恐るカイを見上げると、驚いたように目を見開いていた。
そして、次第に目が細められていく。
『リヴァイ、お前ちょっと話をしようか』
「あ?」
『一回りも違うような相手にどれだけの荷を背負わせるつもりだよ』
「何が言いたいんだてめえ」
まずい。どうやら違う意味で取られてしまったらしい。静かに怒り出したカイはゆらりとリヴァイの方へと歩き出す。あれは確実に手が出てしまうだろう。
「ま、待った!カイ、今のはそうじゃない!」
行かないで欲しい。そう思って手を伸ばす。
ここにいて欲しい。リヴァイの元には行くな。
カイの手を取ろうとした瞬間、右手がバチッと光った。
「うっ……!」
ビリビリとしたものが指先から腕へと伝っていく。爆音と共に風が巻き上がり、周囲に居たものは飛んで行った。
「あっ、な、」
右手が巨人化している。どうして今頃になって。
「なんで……!はっ、カイ!!」
カイの手を取ろうとした瞬間巨人化してしまった。もしかしてカイを潰してしまったんじゃないかと手の方を見る。蒸気に視界が覆われてしまってよく見えない。まさか、まさかと恐怖が頭を支配していく。
『エレン』
「あっ、カイ!ごめん、俺ッ」
『大丈夫か?』
「えっ」
『びっくりしただろ。大丈夫だから落ち着け』
ぽんぽん、と右手が撫でられる感触が伝わる。蒸気が晴れた先、巨人化したエレンの右手の中にカイは立っていた。
.