第十三幕
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「今回捕まえた二体の巨人から得られたものはそれくらいだね」
『前回と余り変わらないな。ということは、通常種の巨人の場合はそれが基本になるということか』
カイが調査兵団を抜けていた間にもハンジは巨人を捕らえていた。今回と同様、様々な実験をしたらしいが、後にも先にも情報が更新されることはない。
「そうだね。奇行種を捕らえることができればもっと他に知り得るものがあるんだろうけど。通常種と違って彼らの動きは予測が難しいからね。捕まえるのは至難の業だ」
『リヴァイに頼めばいいんじゃないか?あいつなら項を削がずに動きを止められるだろ』
「やってみたよ。でも、みんな生命力が凄くてね。捕まえる前に逃げられるんだ」
そこらの奇行種に知性があるわけではない。人間を食うことしか頭に無い巨人が自分の命を守るために逃げたとは考えにくい。でも、巨人にも一応痛覚があるということが分かっているので、彼らは痛みから逃げたということも考えられる。
『奇行種は無理か。あいつらが一番謎に包まれてるだろ』
「そうなんだよ!奇行種を捕まえることが出来れば、新たな発見があるかもしれないんだ!だから、ね!?」
『それは手伝えって言ってんのか……』
「リヴァイだけじゃ無理だったけど、カイと一緒なら捕まえられるかもしれないだろう!?」
『そんなに期待されてもなぁ』
「頼むよ!奇行種を捕まえるのを手伝ってくれ!お礼にカイも実験に参加していいから!」
『お礼がお礼になってない。むしろ嫌がらせだろ』
ハンジの実験に参加するのは辞退したい。新たな発見があったのであれば、いくらでも話を聞くけれど、その場に居合わせるのは嫌だ。
いつだったか興味本位で実験を側で見ていたことがあった。その時はハンジの狂乱っぷりに度肝を抜き、思わずエルヴィンの後ろに隠れてしまった。びっくりしたとはいえエルヴィンの後ろにだ。あのキモハゲ親父の背に身を隠すなんて二度としない。
『最悪だ。嫌な記憶が掘り起こされた』
「え?なんだって?」
『なんでもない。それよりハンジ、一つ聞きたいことがあるんだけど』
「なんだい?」
言葉をそこで区切ったカイは階段の方を見る。誰も居ないことを確認し、そしてエレンの両耳を手で押さえてから口を開いた。
『これまで殺してきた巨人。そいつらの……項の中を見たことはあるか?』
「項の中?ううん、見たことないよ。それがどうしたの?」
『無いならいい』
「突然どうしたんだい?」
『ごめん、変な事聞いた。忘れてくれ』
愚問だ。誰も項の中を確認するやつなんていない。自分だって今まで確認なんてしてこなかったのだから。
でも、その可能性が生まれてしまった以上、確認しなくてはならないかもしれない。
『(そんな事はありえない。いや、あっちゃいけないんだ)』
「ねぇ、カイ」
『なに?』
「私は巨人が"何者"であっても殺すよ」
『え……』
俯いたハンジの顔はよく見えない。でも、声色からしてあまり良い表情はしていないだろう。
「どうして巨人の弱点が項なんだろうって。ずっと考えてた。どれだけ文献を読んでも、巨人を捕まえて実験しても分からなかったんだ。でも、エレンの存在によってそれが明らかになるかもしれない。いや、むしろ私たちはもう既に知っているのかもしれない。彼が巨人の項から出てきたということは──」
『ハンジ』
言わせてはならない。気づかせてはダメだ。
『巨人は巨人でしかない。俺たちの仇敵であり、殺すべき存在だ。相手がこちらを捕食しようとするならそれ相応の対処をしなくちゃいけない。そうだろ?』
「……そうだね。巨人は巨人だ」
『悪かった。俺が変なことを言ったせいだな』
「そんなことはないさ。むしろ助かったよ。私だけじゃないって知れたんだ」
ハンジも気づいていたのだ。それを敢えて黙っていた。言ってしまったら何も出来なくなってしまう。巨人に対して刃を向けられなくなる。
「これは私たちだけの秘密にしよう。来るべき日が来たら……話せばいい」
『ああ。その方がいい』
緊張で口の中が妙に乾く。水を一口飲んでほっと息を吐いたところで、部屋の扉が乱暴に開けられた。
「ハンジ分隊長はいますか?」
「え?」
駆け込んできたのはモブリット。疲れた様子から察するに彼はここまで急いで来たのだろう。
「被検体が!巨人が二体とも殺されました」
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