第十二幕
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「カイ、夕飯出来てるわよ」
部屋の扉を何度かノックしてみるも中に居る人間からの応答はない。でもこのまま戻ったらリヴァイの機嫌は下がる一方だ。
「まったく。何してるんだか」
中々出てこないカイにペトラは重いため息を漏らす。様子を見てくると言っただけだから、連れて行けなくても怒られはしないだろう。でも、自ら名乗り出しておいてカイを部屋から出せなかったら失望されるかもしれない。
「カイ、兵長が待ってるんで出てきてください」
再度声をかけて相手の返答を待ってみる。暫く待ってみるもやはり返事は無い。
「やっぱり憲兵はだらしない人なのね」
昼に話したときは良い後輩が出来たと思っていたのに。あれはただの社交辞令だったのか。
憲兵の人間はやはり信用に値しない。そう再認識した。
腐敗しきった組織の中にいた者の性格なんてたかがしれている。傲慢でプライドだけは壁より高い。きっとカイもそういう人間なのだろう。
だが、リヴァイ班に入ったからにはそうはいかない。
「出てこないのが悪いのよ。返事がないので入りますよ」
もう彼は憲兵ではない。今まで安全なところでぬくぬくと生きてきたのかもしれないが、これからはそんな生活は許されないのだから。
扉を開けて部屋を覗いてみると真っ暗だった。廊下にあるロウソクの火が僅かに部屋の中を照らしてくれるが、カイの姿を視認できるほどのものでは無い。
「本?なんでこんなところに?」
部屋に足を踏み入れると、つま先に固いものがぶつかった。拾いあげたそれは分厚い本。それが何冊も床に散らばっている。
「本を読んでたってこと?掃除もせずに?」
散乱している本を一つずつ拾っては積み上げる。
「カイ!どこにいるんですか。こんなに散らかしてたら兵長に怒られますよ」
闇の中を慎重に進む。時折、落ちている本につまづいてはヒヤリとしたものを背中に感じた。
『ん……』
「カイ?」
どこからか声が聞こえた。小さな声だったが確かに聞こえたのだ。
「どこにいるの?返事してください!」
『んん……あれ……ペトラ……?』
なんとも眠そうな声が返ってきた。まさか彼は今まで寝ていたのか。
「なんですかこの散らかりようは。こんなところを兵長に見られたら怒られるじゃないですか!」
『んー……ん、リヴァイ?』
「リヴァイ兵士長です。上官を呼び捨てにするなんて。身分を弁えてください」
もう昼に感じた好青年の印象は砕け散った。彼はただの愚かな兵士でしかない。
「いい加減にしなさい!いつまでこんな暗がりに閉じこもって──きゃっ!」
カイを引っ張り出してリヴァイの所へ突き出そうと足を踏み込んだ先に本が置いてあり、それを慌てて避けたペトラはバランスを崩した。どこかに手をつこうとしても暗闇では何も見えない。そのまま床に倒れる!と身構えたが、カイに抱きとめられたことで痛みは来なかった。
『大丈夫か?』
「大丈夫……てか、貴方がこんなに本を床に置かなければこんなことにはならなかったのよ!」
『悪い悪い。つい読みふけっちゃって』
「ついじゃない!」
明かりをつけて早く片付けろと怒るペトラにカイは気にしてないように笑う。それがまたペトラの神経を逆撫でしてくるので、ふつふつと怒りが込み上げてくる。
「いい加減に──」
「おい。お前ら一体何をしてる」
「へ、兵長!」
「俺はカイを呼びにいけと言ったはずだが」
ロウソクを片手にリヴァイが部屋に入ってくる。そのお陰で今、自分がどういう体勢なのかが分かってしまった。
「あ、えっ、あっ、これはその!」
『あっ、リヴァイ!聞いてくれよ、この部屋にあった本、全部巨人の調査資料だったみたいなんだよ。だいぶ前に書かれたものらしくてところどころ掠れてるけど面白い内容だ』
「カイ、お前はずっとこれを読んでたのか」
『うん?うん。途中で寝落ちたみたいだけど』
床に置いてある本を見たリヴァイは顔の皺を深くする。あぁ、これはまずい。
「す、すみません。私がしっかりしてなかったばかりに」
「ペトラ、お前は先に下に戻れ」
「は、はい……」
これは確実に失望された。それどころか、カイの膝の上に乗っかっているところを見られてしまった。事故とはいえこんな姿をリヴァイに見られたのはとても辛い。
とぼとぼと肩を落としながら部屋を出ようとするペトラの背に声がかけられる。
『ペトラ!起こしに来てくれてありがとな。それとごめん。俺がちゃんと本片付けてれば転ばせることは無かったのに。怪我はしてないか?』
「大丈夫、です」
『良かった。痛みが後から出るかもしれないから気をつけてな』
リヴァイの持っているロウソクの火に照らされているカイの顔はとても優しそうに見えた。本気でペトラのことを心配している。しかもリヴァイに誤解されないようにさりげなくペトラがカイの上に乗っていた理由も添えて。
「あの人、一体なんなの……?」
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