第十二幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あのバカは飯も食わずに一体何をしてやがる」
掃除が終わったあと、綺麗になった一階のフロアで各自食事をとっていた。
リヴァイの面々に囲まれながら摂った食事はあまり味がせず、エレンは訓練兵団で食べた食事を思い出す。お世辞にも美味しいと言える料理ではなかったものの、仲間たちと談笑しながら食べたご飯は今の食事に比べれば大分マシだった。
「おい、エレン」
「は、はい!」
「お前上の階の掃除をしてたな。その時、カイは何してた」
「えっと……普通に掃除してましたけど」
「なら何故降りてこない」
「それは分かりません……」
カイと最後に会ったのは部屋で話した時だ。あれから数時間経っているが、カイは下に来るどころか部屋からも出てきていない。
「私、見てきます」
「無理やりにでも引きずり出してこい」
「はい」
舌打ちをしたリヴァイに班員が苦笑いを浮かべる。そんな中、ペトラが手を上げてカイの様子を見に行ってくると言った。きっとリヴァイの機嫌がこれ以上下がらないようにと気をつかったのだろう。
「それなら俺も──」
「エレン、てめぇはここに居ろ」
「えっ、あ、はい」
自分もカイを呼びに行こうと腰を上げるとリヴァイに止められてしまった。ただ止められただけならよかった。何故か鋭い目で睨まれていて、断ろうものならまた蹴り飛ばされそうな雰囲気。
「リヴァイ兵長、質問があるのですが」
「なんだ」
「カイ・クラウンは憲兵に所属していたと聞きましたが、何故彼をリヴァイ班に引き入れたんですか?」
今まで黙っていたエルドが恐る恐る口を開く。
「あいつが必要だったからだ」
「ですが、憲兵の者が巨人を倒せるとは思えません。何か別の役割を担っているのですか?」
「いや、カイにも巨人の相手をしてもらう」
「兵長、あいつは立体機動の使い方もよく分かっていないんですよ。そんな奴を調査兵団に、ましてやリヴァイ班に入れるなんて」
カイから立体機動装置の使い方を教えて欲しいと頼まれたオルオが呆れ混じりに呟く。
「三十日後には壁外遠征があります。それまでに彼が立体機動を使いこなせるかは些か無理があると思います」
「問題ない。奴は並の兵士より使える」
カイが元調査兵団だったといえば済む話なのに。
リヴァイはカイのことを憲兵の兵士だったとしか説明しなかった。それでは他の者たちが不思議に思うのは当然だ。
憲兵は調査兵団、駐屯兵団よりも劣っている。安全な内地にいる彼らは巨人と戦うことなんてしないから。そんな所から引き抜かれた兵士なんて使えるはずがない。それがエルドたちの意見だ。
「(なんでカイもリヴァイ兵長も黙ってるんだ)」
言っていいものなら言ってしまいたい。カイは巨人を倒せるのだと。
憲兵なんかとは比べ物にならない。自分は一度しか見ていないけど、ミカサとアルミンがカイのことをとても褒めていた。エレンが暴走して動けなくなってしまった時も、駐屯兵団を守りながら巨人を倒していたのだと。
「リヴァイ兵長、なんで本当のこと言わないんですか。カイは元──」
漂う空気に耐えきれなくてエレンが言いかけたとき、階上からガタンッ!と物音が聞こえた。
「何やってんだアイツらは」
「そういえばペトラまだ戻ってきませんね」
「まさか何かあったんじゃ……」
顔を見合わせるエルドとグンタ。オルオも階段の先をじっと睨むように見つめている。
「お前らはここにいろ。俺が見てくる」
一口紅茶を飲んでからリヴァイは立ち上がる。
その顔はとてつもなく不機嫌そうだった。
.