第十二幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
リヴァイから三角巾を渡されて小一時間。自分の部屋の掃除が一段落ついた。
『暫く使ってなかったからとはいえ、汚すぎるだろこれ』
至る所に積もっているホコリとカビ、床にはなんだかよく分からない虫が我が物顔で歩いているし、壁の隅には蜘蛛が家を作っている。それらを綺麗にするのに一時間も掛かってしまった。
体力が少しずつ戻ってきているとはいえ、いきなり動きすぎてしまったのか少し頭がぼうっとする。
『休もう……また倒れたら厄介だ』
新品のシーツに取り替えたベッドに腰掛けて壁に寄り掛る。寝転びたい気分ではあるが、埃まみれの服で横になるのは嫌だ。
「カイ?」
『あっ、バレた』
扉を開けっ放しにしていたので、部屋の前を通りかかったエレンに見つかってしまった。ベッドに座っている所を見られ、サボっていると言われるのかと思いきや、エレンはカイの隣に座って不安そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫か?」
『少し疲れただけだから大丈夫。そっちこそ掃除は終わったのか?少しでも手を抜くとあいつうるさいぞ』
「多分大丈夫だと思う」
『そ?ならいいけど』
リヴァイは掃除に関して口うるさい。潔癖症である彼は少しのホコリも許せないタチなのだ。掃除がなってなければ相手が誰であろうと文句を言う。カイも散々言われた口なのだ。それはもう嫁の欠点をつつきまくる姑のごとく。
「そういえばさっきなんで言い返さなかったんだよ」
『何を?』
「オルオさんに新人って言われただろ」
『ああ、それか。訂正すんのもめんどくさいし、後輩扱いされんのも久しぶりだから楽しいなぁって』
「なんだそれ」
調査兵団に一年も居れば先輩なんてすぐに居なくなる。一年もてばいい方だ。運が悪い時は次の日には、なんてザラにあることなのだから。
それに先程オルオに言ったことはあながち間違いでもない。憲兵に行ってからというもの、立体機動には一切触れることがなかった。兵舎には一応用意されているが、使う理由がないためホコリを被ってしまっている。
整備ぐらいはしているだろうと思っていたのだがそんな気配も無い。それどころか憲兵の者たちは皆、立体機動の整備方法を忘れていることが多く、カイが声をかけても必要ないと言って誰も手をつけなかった。
仕方なく自分がメンテナンスをしようと手を出すと上官に呼び出されて叱りつけられた。勝手なことをするなと。
そのせいでカイも立体機動の使い方を忘れかけていた。トロスト区が巨人に落とされなかったらあのまま装置の使い方を忘れていたかもしれない。
だから彼らが立体機動を教えてくれるというなら助かる。今のリヴァイ班の特性を知るのにも絶好の機会でもあるし。
「カイはなんで調査兵団に入ろうって思ったんだ?」
『成り行きだなぁ。当時は憲兵に入れる頭は持ってなかったし、駐屯兵団でも調査兵団でもどっちでもいいなぁって思ってた』
「じゃあなんで駐屯兵団に行かなかったんだよ」
『面白いやつが居たから』
「面白いやつ?」
『そう。やたら強いやつがいるって。一人でアホみたいに巨人を倒す人間がいるって聞いたからどんな奴が見に行こうって』
確かそんな理由で調査兵団に入ったはずだ。
わくわくしながらその相手を見に行ったことを今でも覚えてる。初対面でガン飛ばされてウザがられたのもしっかりと。
『要は理由なんてないってこと』
「相変わらず変な考え方してるよな」
『それは馬鹿にしてるのか?』
「別に」
むっとした顔で床を見つめるエレンにカイは吹き出すように笑う。
『なんでお前不貞腐れてんの?』
「不貞腐れてない」
『不貞腐れてんじゃねぇか。なに?俺が調査兵団に入るの嫌だった?』
「嫌っていうか……相談もなく入ってたのが気になるだけで」
それを嫌と表現せずになんと言うのか。
何故か不機嫌になってしまったエレンの頭をわしゃりと撫でる。暫く撫で回していたら、階下からリヴァイがエレンを呼ぶ声がした。
「やべっ!掃除が終わったら報告しに来いって言われてたんだ」
『おっと。それはまずいな。んー、エレン、リヴァイに言っとけ。俺が引き止めたって』
「何言ってんだよ。カイのせいにするわけないだろ」
『"疲れてたみたいだから手伝った"そう言えば文句は言われないはず』
「でも、」
『いいから。な?』
引き止めてしまったのは本当のこと。ここで話してないでリヴァイの所に行かせれば良かったのに、久しぶりにゆっくり話しが出来たのが嬉しくて長話になってしまった。
それでエレンが怒られるのはあまりにも可哀想だ。
『遅いって蹴られるかもしれないから。必ず言えよ?』
「わかった……。ごめん」
『謝るのはこっちの方だって。ほら、待たせるとプリプリしだすから。早く行っておいで』
「プリプリ……兵長のプリプリってなんだよ……」
エレンの背中を押して下に行かせる。廊下で立ち止まって様子を伺ってみたが、階下から物音はしなかった。
『大丈夫そうだな。よし、俺も片付けの続きするかな』
ベッド、窓枠、床天井は綺麗になった。残るは本がぎっしりと詰め込まれている棚だけ。ここを最後にしたのは確実に時間が掛かると思ったからだ。
『本に興味を持たずに整理できるのか……無理そうだけど』
.