第十二幕
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「旧調査兵団本部。古城を改装した施設ってだけあって趣とやらだけは一人前だが、こんな壁と川から離れた所にある本部なんてのは調査兵団には無用の長物だった。まだ志だけは高かった結成当初の話だ。しかし、このデカいお飾りがお前を囲っておくには最適な物件になるとはな」
『リヴァイ、お前……』
「言うな」
前方で話している男の背中を見て笑いが込み上げてくる。隣にいるリヴァイはなんとも言えない顔でエレンを見ており、自分の真似をしているであろう男には一切目もくれない。
審議所の件から数日後、カイは再び自由の翼を背負った。
そして今はリヴァイ班として行動している。
数日の間、まるで生きた心地がしなかった。まさか毒を盛られていたなんて知らなかったからだ。
栄養失調の原因は自分にあると思っていた。いや、それはそれであっていたのだろう。口に物を運ぶ度に巨人が人間を捕食する様を思い出して吐き気を催していたから。
だから毒のせいだったのか、精神的な問題だったのかは定かでは無い。ただ、身近にいた人間から殺意を向けられていたという事実に頭が真っ白になった。
そんな状態では他の兵士らと共に行動するのは危険だとリヴァイが判断し、カイはリヴァイ班へ入れられることになった。元々、所属していたこともあり問題は無いだろうと。
『そういえばなんで知ってたんだよ』
「何がだ」
『俺の食事に殺鼠剤が入ってたって』
「聞いただけだ」
『聞いたって……どうやって聞くんだよ。まさか憲兵の兵舎に忍び込んだわけじゃないだろ』
「……さあな」
『え、なんだその返事。おい、まさか本当に忍び込んだわけじゃないだろうな!?』
「騒ぐな。無駄に体力を使うんじゃねぇ」
兵士長ともあろう人間が盗人のようなことをするとは。こんなことが他の人間に知られようものならまた軍法会議を開かれる。次は言い逃れできないだろう。
『ここだけの秘密にしとけよ?じゃないと今度はリヴァイがあそこに立つようになるぞ』
「俺がそんなヘマをすると思ってるのか?」
『しないとは思うけども。何があるか分からないだろ。こんなんじゃ』
さっきまで威勢よく喋っていたオルオが突然黙り込む。ボタボタと赤い雫を地面に垂らしながら呻いているのが聞こえ、舌を噛んだのだと察した。
「てめえは自分の心配だけしてればいい。飯も満足に食えねぇようなやつに文句を言われたくねぇな」
『悪かったな食えなくて。これでも少しは食えるようになったんだよ』
ハンジが気をつかってくれているおかげで、なんとか食べれるようにはなってきた。まだ柔らかく煮込んだ芋までしか入れらないが、これなら固形物を入れられるようになるのも時間の問題だ。
『でもまさかまた食事がとれるようになるとは思わなかったなぁ』
「食わなければ死ぬぞ。よくそれで今まで死なずに済んだな」
『それはそう。よく生きてたわ』
いつ死んでもおかしくは無かった。それでも生きていたのは奇跡なのか、それとも己の生命力が強かったのか。
『でもまあ、生きてればいいこともあるもんだな』
「ほう。こんなクソみてえな世の中でいいことなんかあるのか」
『うん。またお前らにこうして会えたから』
「……ふん」
それがとても嬉しいと呟くと、リヴァイはふいっと顔を逸らしてしまった。
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