第二幕
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逃げ惑う町民たちの波を抗うように走る。向かう先は先程出てきた憲兵団の基地。
「カイ!お前今までどこに行ってやがった!」
『言っただろうが!いつもの巡回に行くって!それより今どういう状況だ!!』
慌ただしく走り回る兵士たちの横でカイは仲間の一人に声をかける。
「五年前と同じだ!壁の外に超大型巨人が現れた!駐屯兵団がいち早く壁の方へ行ったが……」
『先遣隊がいるはずだろ!そいつらはどうした!』
駐屯兵であれば多少なりとも巨人の相手は出来るはず。完全に食い止めることは出来なくてもいい。人々が避難出来るだけの時間を稼ぐことが出来れば。
「そんなもんとっくに全滅してる!」
『全滅……だと?』
「ああ!前衛はもう使い物にならん!中衛だってすぐに崩れるだろうよ!」
上官からの指示は民衆の避難誘導。それが完了したら次は自分たちの身の安全の確保だとそいつは喚き散らす。
「早くしろ!こんなところにいつまでもいたら俺達も危ねぇ!」
『待てよ。まさか駐屯兵団を囮にして逃げるつもりじゃねぇだろうな!?』
「俺たちには俺たちの仕事がある!あいつらは壁内地域の防衛を担ってるだろうが!俺らには関係ねぇ!」
その言葉を聞いてカイの中で何かがキレた。
巨人を前にして逃げたいと思っているのは駐屯兵も同じ。彼らだって家族を連れて逃げたいと思っている。でも、それが出来ない。敵前逃亡は死罪とされ、生き残ったとしても処刑される。
それに逃げられたとしても巨人を食い止められなければ壁はまた壊される。
それなのに憲兵は住人の避難が完了したら引き上げるというのだ。
「カイ!てめえも早く──」
『装備は』
「あ!?何言って」
『装備はどこだ。予備の立体機動装置があるだろ。それを寄越せ』
「お前一人で何が出来る!犬死にするだけじゃねぇか!」
『しっぽ巻いて逃げ出すてめぇらに比べたらそっちの方がまだマシだ!』
引き留めようとしてくる兵士を押しのけて基地の中へと入る。
装備が保管されている倉庫へと向かうと、そこには使われずにホコリを被った状態の装置が置かれていた。
『あーあ、どうすんだよ。これじゃ憲兵に居られなくなるだろうが』
無理を言って憲兵に配属してもらったというのに、職務放棄という理由でクビにされそうだ。そうなったらもう行く宛てなどない。
『どうすっかな。適当に中で仕事探すか……それとも』
立体機動装置を付け終えて一呼吸置く。
今まで生きる理由も死ぬ理由もなかった。中途半端なところでのらりくらりとしてきたのだ。
それが今、死の方へと一歩傾いてしまった。人生に絶望したわけじゃない。何もかも諦めたつもりでもなかった。ただ、これから先が見えず、生きる理由を見つけられない。
自分が生かされた理由が。
『今は……今は住民の避難を最優先に考えろ。自分のことは後回しだ。その結果で死んだのなら。俺の運命はそれまでだったということにすればいい』
ガスの補充もし、刃も持った。久しぶりに装置を使うから上手く扱えるかは分からない。それでもやるしかないのだ。
基地から外へと出るまでの間、すれ違った兵士たちから異質な目を向けられる。その目を見るのも今日で最後。そう思ったら少しだけ気分が晴れた。
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