第十一幕
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「全く酷いねほんとに。痛いだろ?」
「少し……」
「……で、どんなふうに痛い?」
「えっ?」
心配の顔からガラリとハンジの表情は変わる。その変わりようにエレンはぽかんと口を開いた。
審議が終わったあと、エレンは手錠を外されることとなった。枷が外されたとはいえ、完全な自由では無い。
「すまなかった。しかしおかげで、我々に君を託してもらうことができた」
「はい」
「効果的なタイミングで用意したカードが切れたのも、その痛みのかいあってのものだ。君に敬意を」
エレンの前にしゃがんでエルヴィンは手を差し出す。
牢屋で見た時のエルヴィンはとても恐ろしく見えたが、今はそのイメージが払拭されていく。
その代わり、エルヴィンの後ろで壁に背を預けて立っているリヴァイがとてつもなく怖い。
「(なんであんなに睨んでるんだ……?)」
部屋に来てから終始睨まれている。その理由は分からないでもないが、こうして上手く事が運んだのだから許して欲しいと思っていた。
エルヴィンの手を取って握り返そうとした瞬間、リヴァイがどさっと隣に腰を下ろした。
「なあ、エレン」
「うっ……あっ、はい」
「お前、あいつとはどういう関係だ」
「あ、あいつって……」
「カイのことだ。お前ら随分と仲良く話してたじゃねぇか」
「それはカイと……」
「カイと、なんだ」
なぜこんな事を聞かれているんだろうか。リヴァイから向けられる敵意むき出しの目、そして前方からも穴が空くんじゃないかというほど見られている。エルヴィンの手を取った右手に段々と力が込められ、骨が軋む音さえした。
「エレン、君はカイと仲がいいのかい?」
「えっ、あ、はい。その、子供の頃からの知り合いです」
「ガキの頃からだ?」
「はい。近所に住んでた人で、親父とよく話してるのを見てました」
「ああ!それで"近所のクソガキ"って言ってたんだね」
「き、近所のクソガキ!?」
「カイが言ってたんだよ。エレンと仲が良いの?って聞いたら、近所のクソガキだったって。何言ってんだろうと思ってたんだけど、そっか。そういうことか。カイも確かシガンシナ区出身だったもんね」
まさかカイにクソガキと呼ばれていたとは露知らず、エレンはひっそりとショックを受けていた。
カイには随分と世話になっていた。突然いなくなってしまう日まではよく遊び相手になってくれていたのだ。
母親と喧嘩してはカイが間に入ってくれたり、悪いことをすれば父親のように怒ってくれてもいた。普段、家にいることの少ない父親の代わりのような存在。
近所に住んでいるお兄さんだったのが、いつからか違う存在になっていた。
「あの、カイは大丈夫なんですか?」
「彼なら部屋で休んでいるよ」
「エルヴィンがあんな真似をしなけりゃ寝込むこともなかっただろうよ」
「それは本当にすまないと思っている。だが、あの場で言わなければ憲兵に牽制出来なかった」
カイが審議所から居なくなったあと、エルヴィンは憲兵団と揉めに揉めた。
ダリスがため息をついて話を途中で遮るほどに。
「カイは憲兵に戻るんですか」
「いや、調査兵団に戻すつもりでいる。彼を憲兵に戻したところで身の保証はされないだろう」
まさか仲間から毒を盛られていたなど信じられないだろう。話を聞いた時のカイは真っ青な顔をしていた。あの感じからして気づいていなかったに違いない。
「一先ず今日のところは休むといい。明日から忙しくなる」
「はい……」
一通りの手当てをしてもらってからエレンは用意された部屋へと入った。
「色々なことが一気に起きて頭がおかしくなりそうだ」
ベッドに寝転びながら今日一日を振り返る。自分のこともそうだが、カイがそんな状況にあったなんて。
あの時、手錠を掛けられていなかったら。倒れゆくカイの身体を支えることが出来たのに。
「そういえばなんであんなに睨まれたんだ?もしかしてカイも疑われてるのか?」
カイとの関係を聞かれた時、リヴァイとエルヴィンの挙動がおかしかった。ハンジはひたすら笑っていたし。
「ダメだ。わかんねぇ。もういいや今日は寝よ」
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